書評「学歴フィルター」

学歴フィルター (小学館新書)
福島 直樹
小学館
2018-05-30



大企業をベースに、企業が実際にどのように学歴フィルターを使っているかを赤裸々に描き出す。たとえばオープンエントリーのはずの会社説明会には実際には「東大、一橋、早慶上智グループ」「GMARCHグループ」「その他グループ」といった大学ランクごとの枠があり、エントリーしやすさが異なるといった具合だ。

本書も認めるように、「優秀な学生」の出現率はほぼ偏差値に比例する。能力だけではなく、フットワークの良さも熱意も、ほぼ比例すると言っていい。だから、企業が学歴フィルターを活用するのは合理的と言わざるを得ない。特に、ネットで一括エントリーが可能となった現在、人気企業がフィルター無しで数百倍の応募者をさばくのは物理的にも不可能だ。

本書では触れられてはいないが、学歴フィルターには「そもそも内定可能性がゼロに近い学生に体力も交通費も使わせない」という学生側から見たメリットもある。

だが、一企業から社会全体に視点を移すと、それは別の問題を孕んでいる。

親が高学歴、高所得だと、その子供の学業成績は良い。そんな恵まれた環境で育った子供たちは高学歴と言われる東大、一橋、東工大、早慶など超・上位大学に入学する。そして、就活では学歴差別、学歴フィルターにより人気企業に就職していく。さらにその後、結婚して子が産まれれば、自分と同様のコースを歩ませる。


社会階層の再生産というわけだ。

著者の提案する「個人で行うべき学歴フィルター突破法」はその通り!と保証できる内容だ(ネタバレなので書かないが)。

ただ、学歴フィルターをなくすための取り組みとして著者が提言する「就活の見える化」と「4年時のラスト4か月就活ルール」がどこまで有効かは筆者には何とも言えない。競争倍率や内定者の学歴の見える化は、倍率の是正とそれによる非上位大の食い込みにそれなりの効果があるかもしれない。

でも結局のところ、古代スパルタみたいに10歳くらいから親元から離れて共同生活させるくらいやらないと「家庭ごとの教育の格差」は無くならず、社会階層の再生産は続くような気がする。

それなら発想を転換して「雇用と社会保障がパッケージになっている終身雇用」という制度にメスを入れ、入れる企業規模で享受できる社会保障に大きな格差がある現状を見直す方が、格差是正としては近道かもしれない。 

どうしてうちの会社だと「残業ゼロで年収アップ」が実現できないの?と思った時に読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。先日、ブログで「町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由」の書評を書いたところ、ネットやリアルで意外と反響があり、ちょっと驚いています。やっぱり残業を減らしたいというニーズはそれだけ強いということでしょう。

中でも多かった声が「なぜうちの会社では同じことが出来ないんでしょうか。やっぱり小さい会社だからこそ可能なんでしょうか」というものです。実はこれ、日本型雇用の本質を考える上で結構重要なポイントだったりします。いい機会なのでまとめておきましょう。

小さな町工場が残業ゼロに出来て大組織ほど難しいワケ

大きな組織ほど残業をゼロにするのが難しい理由はいくつかあります。

・説明不足だから

まず、吉原精工と同じことをやろうと思ったら「残業代はゼロにするけど、その分は基本給に上乗せするから」という説明で従業員を納得させないといけません。でも、それが出来る大手トップはどれくらいいるでしょうか。口では「そんなの簡単だ」という人は多いでしょうが、本当に納得させられるでしょうか。

筆者の感覚だと「いや絶対残業代削減の口実に違いない!」といって従業員が疑心暗鬼になってしまう会社が大半のような気がします。要は普段からトップが従業員とのコミュニケーションに関心がなく、信頼関係が醸成されていない結果です。

ちなみに吉原精工の場合、毎月社長が売上げと利益を職場に張りだし、利益の半分は人件費として還元することを約束しています。すると、従業員は「あといくら頑張れば給料が〇〇円上がる」というのが一目でわかるので一生懸命頑張ります。また、いくら残業したって利益になってなければ意味がないとわかっているので、無駄な残業も控えます。そうやって日頃から従業員の意識を高めた上で「残業代はゼロにするけどちゃんと還元はするから」と言うから説得力があるわけです。

ついでに言うとこの辺の話は労働組合にも責任がありますね。上層部は春闘などを通じて無駄に残業したって人件費なんて増えないことは承知しているはずなのに、長時間残業や過労死に目をつぶってひたすら「時間で払え」と言い張ってきたもんだから、今さら組合員に「残業なんてやるだけ時間の無駄」とは言えないんでしょう。

・業務の切り分けが色々と面倒くさいから

もう一つ、残業をゼロにするには、残業代を基本給に組み込むことにくわえ、業務をしっかり切り分けて担当範囲を明確化する必要があります。なぜか。担当業務が曖昧なまま「みんな定時で帰るぞえいえいおー」とやっても最初の一か月くらいはなんとかなりますが、そのうちきまってダレてくるものだからです。人間というものは「どうせ早く終わらせても他の仕事を手伝わされるんでしょ?」と考えると必ず手を抜く生き物なのです。

ちなみに吉原精工は工場に複数台の金属部品加工機械が並んでいて、誰がどの担当かはある程度最初から明確になっているという素地がありました。同じことを他企業がやろうと思うなら、この“業務切り分けプロセス”の実施は避けては通れません。

ただし、これは労組が相当嫌がると思います。だって担当業務の明確化なんてしようものなら「同じような業務を担当してるのに20代の3倍貰ってるオジサン」みたいな存在が白日の下にさらされるわけですから。

・中高年がリスク取る気が無いから

残業ゼロを実現する上で最大のハードルはまだ他にあります。一言でいうと、それなりに時給の上がっちゃった中高年は時給で貰った方がラクだからです。

たとえば50代で基本給が60万越えている中高年は時給でいうと3000円以上貰っているので、普段ボーっとしてようが上司にどう評価されようが月30時間残業するだけで+10万くらいは“確実に”稼げるわけです。今さらその既得権を返上して「成果を上げられるかどうか、いちかばちかの勝負をかける」なんてことはやりたがらないわけです。どこの労組もそういう中高年が中核になってまわしているので、労組としても似たようなスタンスになりますね。

まとめると、トップのコミュニケーション不足に加え、いまさら既得権捨ててまでリスクとりたくないという組合員が一定数いるために、残業をゼロにする方法はわかっていても、なかなかそれを実現するのは難しいのが現状だということです。






以降、
大きな組織で残業ゼロを実現する方法
個人で出来る残業ゼロ仕事術








※詳細はメルマガにて(夜間飛行)







Q:「会社のビジョンも自身の市場価値も見えづらい中、次の一手は?」
→A:「会社の10年後よりも、転職市場における自身のリアルタイム評価が重要です」



Q:「解雇しやすくしてしまうと逆に失業率が上がったりしませんか?」
→A:「失業率は上がる可能性もありますが長期失業者の割合は下がります」



Q:「業務分担を理想的に機能させるために必要なマインドは何でしょうか?」
→A:「成果を上げたらきっちり現金で報われるという確信です」







雇用ニュースの深層

・完全にプロレスと化した働き方改革関連法案審議


企業が冷めた目で見守る中、「待ちに待った第三の矢です」という人達と「過労死促進法案反対」という人たちが、それぞれの支持層向けに仕事してるアピール合戦を繰り広げています。

・ポスト確保のために歪む行政


企業は株主や競争があるのでどこかでロックがかかりますが、そうしたもののない官はどこまでも行政を歪めてポストを確保しようとします。



他。





Q&Aも受付中、登録は以下から。
・夜間飛行(金曜配信予定)






書評「コンビニ外国人」

コンビニ外国人 (新潮新書)
芹澤 健介
新潮社
2018-05-16




普段使っているコンビニで、外国人の店員を一度も見たことがない、という人は恐らくいないだろう。公式に移民は受け入れていないはずなのに、彼らは一体どこからどういったルートで、何を求めて日本にやってきたのか。

タイトルは「コンビニ外国人」とあるが、コンビニをとっかかりとして、ひろく日本全体の外国人労働者の現状についてコンパクトにまとめた良書だ。

世界基準では1年以上滞在すれば移民という扱いになるが、日本政府は「永住権を持っている外国出身者」のみを移民と定義している。だから、日本語学校等に留学しつつバイトをする外国人や、技能実習制度を通じて農家や工場で働く外国人はこの十年で約2.6倍に増加し、128万人に達したが、政府のスタンスとしては移民受け入れは拡大してはいないことになる。ただ、世界基準でみれば、既に日本は世界TOP5にランクインする外国人労働者受け入れ大国だ。

コンビニでおにぎりを売っている店員はもちろん、おにぎりを作っている工場で働く労働者も、いや、海苔やおかかを加工している労働者も、実は外国人労働者かもしれない。現実問題として、日本は彼ら外国人労働者無しではやっていけないほど働き手が不足しているのだ。

技能実習生の過酷な就労環境はしばしばニュースになるが、留学生も相当シビアだ。「留学生のバイトは週28時間まで」という縛りがあるから、学費を払えば生活はギリギリ。日本語学校卒業後の大学や専門学校の学費まで自力で稼ごうと思ったら強制送還のリスクをとってオーバーワークするしかない。

そもそも“日本語学校”とやらの授業料が(バイトを考慮して)授業時間が半日の割に年60~80万円と一般の専門学校などと比べるとかなり割高だ。中には自前の寮を用意してくれる学校もあるが、家賃相場4万円ほどの2DKに留学生4人を共同生活させ、寮費として一人2~3万も徴集する悪質校まであるという。留学生の中には、故郷を出る際にあっせん業者に100万円以上搾取され、日本に来てからは日本語学校に搾取され、進学も仕送りもできないまま日本語学校卒業と同時に帰国せざるをえない若者も多いという。

残念ながら、我が国は既にエリート層が目指す国ではない。

「でも、留学を目指す人たちでもトップクラスの人はハーバードとかアメリカの大学に行きますね。日本に来る留学生は北京大学もハーバードも受からない人」



「(ネパールで)若い子に話を聞くと、本当に医学や科学を勉強したいと思う人たちはアメリカを目指すわけですよ。その次がオーストラリアですね。面と向かって言われるとちょっとショックだったのですが、日本を目指す子たちというのは中間層から下の子が多くて、なぜ日本に殺到するかといえば、やっぱりアルバイトができるからなんです。ビザも比較的簡単に取得できるので、自分の人生を変えたいと思う若い子にしたら日本はすごく魅力的な国なんだと思います」



だからこそ、それでも日本に働きに来てくれる人たちのために、もっと出来ることはあるはずだ。著者も指摘するように、東京五輪後に日本は景気後退期に突入する可能性が高い。ちょうどその頃に生産年齢人口がピークアウトする中国は、労働者を送り出す側から受け入れる側にまわるだろう。

ネパールの留学斡旋業者の中には、早くもそれを見越して日本向けの募集を他国に振り分ける動きも出ているらしい。そうなればグローバルでの労働力の奪い合いが激化し、高齢化と低成長の続く日本は相対的に不利になる可能性が高い。

そんな環境の中で、すでに“老体”となっている日本が勝ち残っていけるだろうか。老人ばかりの国で勉強したい、働きたいと思う外国人たちがどれほどいるだろうか。おそらくわたしたちが考えている以上に事態は深刻である。十年後にはコンビニの無人化も進んでいるだろうが、店内をうろうろする客は日本人の高齢者ばかりで、かつて若い外国人がたくさん働いていた様子を懐かしく思い出すのかもしれない。



筆者の私見だが、そうなってしまう前に、日本語の習熟度によって日本語学校の学費に奨学金を出すとか、留学中のバイトの上限時間を緩和する等、すぐに手をうてることはあるはずだ。

テーマ的にやや暗い書評になってしまったが、本書に出てくる留学生はみな前向きで明るい。日本は治安が良く人も親切でおおむね満足していると口にする。そういうアドバンテージがある間に、次の一手をうっておくべきだろう。


コメント廃止について

ご報告なんですが、ブログのコメントは外国からのスパムがすごくきてチェックするのが面倒なので基本コメントは廃止です。言いたいことあったらSNSで代替してください。

書評「逃げられない世代」





日本の財政、社会保障制度の行き詰まりを指摘する本は多いが、本書は以下の2点でとても興味深い。

・元官僚として、日本社会に巣くう“先送り”の病根を示している

政治家は平均すると2、3年で選挙という試練を受けるため、それくらいで有権者から評価してもらえる政策しかやろうとしない。「30年後に社会保障がパンクするので年金カットします」なんて言っても評価されるどころか怒った高齢者に落選させられるのは確実だからだ。

では、終身雇用の保証された官僚が国家100年の計を考えてくれるかと言うとさらに絶望的で、終身雇用型組織特有のローテーションにより、若手~中堅で2~3年、幹部以上なら1~2年であちこちのポストを転々とする彼らは、その期間でできることしかやろうとはしない。

たとえば「業務範囲を定めない職能給で長期雇用させているのが長時間残業と低生産性の原因なのだから厚労省と協議の上、雇用形態の見直しを進めよう」と考える官僚は少なくないはずだが、実際にアウトプットとして出てくるのは「プレミアムフライデー」とかになってしまうわけだ。

ついでに言うと野党がバカなのもちゃんと理由がある。現在の日本では、法案は各省庁が作成し、実質的に自民党の政調会でがちがちに固めた上で国会提出され、野党が何を言おうが一字でも変えさせるのはほ不可能というのが実情だ。国会中継では一応議論しているようにも見えるが、あれはあくまでしているふりだけであり、時間になったらハイ、採決!と言うのだから野党からしたらたまらない。せめて延々とスキャンダル追及で盛り上げるくらいしかやることがない。

twitterではなんでもかんでも安倍総理にからめて笑いを取る小西師匠が人気だが、師匠もきっとボケながら心の中では泣いているに違いない。








・人口動態から「逃げられない世代」を特定

かつて団塊世代には団塊ジュニア世代という、自分たちとほぼ同じボリュームのある受け皿世代が下にいた。だから一千兆円を超える国の債務も、それと同程度存在するとされる社会保障の隠れ債務問題も、なーんにも手を付けないまま逃げ切ることに成功した。

でも、団塊ジュニアにはもはや受け皿となる世代は存在しない。だから、団塊ジュニアが高齢者になる2036年以降、それを支える下の世代、具体的には現在の20~30代は、団塊ジュニア世代を支えつつ、問題を先送りすることなく正面から問題に取り組まねばならない。

具体的に言えば赤字国債に依存しなくても済むよう25兆円以上の増税が必要であり、選択肢は消費税くらいしかないので1%=2兆円として少なくともあと13%、20%台へのの引き上げが必須となるとする。※

「そんなに上げたら景気が悪くなるじゃないか」と心配する人もいるだろうが、もう先送りできないんだからしょうがない。文句はこれまで先送りし続けてきた先輩方に言うといい。

ちなみに、この「先送りできなくなるのは2036年」という数字は、国債が国内だけでは消化出来なくなるタイミングとも符合する。政府としても本腰で財政再建と緊縮に取り組まねばならなくなるはずだ。

ただ、本書のトーンは全体として意外に明るい。著者も述べるように、財政破綻といっても或る日いきなりバターンと倒れるようなものではなく、政府が財政規模の急激な縮小と大規模な増税を短期間で行う形で実現するだろう。消費税引き上げにしても、恐らくはそれまでにちょこちょこ上げていくから、意外に団塊世代や団塊ジュニアも完全に逃げ切れるものではないと思う。

むしろ高齢化という先進国共通の病に対し、良くも悪くもムラ社会的な要素の残る日本人は、協調性を発揮して新たな持続可能なシステムを生み出せるのではないか。

世の中には「見たいものしか見ない」人が多い。で、そういう人向けに「見たいものを本などに書いて売りつける人たち」もいる。「日銀に買い取らせればいつまでも借金できますよ」とか「バラマキで経済成長!」とか言ってる本が典型だ。ま、そういうのが読みたいって人はそれでいいけど、これから先に何が起こるのか、そして、真の意味で“逃げ切れない人”にならないためにはなにをすべきか、に興味があるという人は、本書を手に取るべきだろう。具体的なキャリア設計のプランなども触れられており、参考になるはずだ。


※筆者自身は医療技術の発達等で社会保障給付の一段の伸びを予想しており、消費税25%程度にしてもなお団塊ジュニア世代はそれなりの給付カットを受けることになると考えている。





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