貧困化するホワイトカラー

貧困化するホワイトカラー (ちくま新書)
森岡 孝二
筑摩書房

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先日ちょっと書いた「規制強化ですべて解決」派の一冊。
まあ別にお勧めではないのだが、労働時間に関する話のたたき台になるので紹介。

タイトルにあるように、全編ホワイトカラーの受難振りが延々と続く。
低賃金、重労働、中でも労働時間に関するものが多く、過労死や名ばかり管理職問題も
続き、そしてそういった問題に取り組む様々な支援活動も紹介される。
で、派遣法は再規制し、労基法違反はきっちり取り締まっていこうねで終わる。

ぱらーっと流し読みした後で著者が経済学部の教授と知ってびっくり。
なんというか、すごく新聞的というか法学部的である。
要するに、なぜ上記のような問題が起きるのか、そしてどうやって解決していくのかという
視点が完全に欠落しているのだ。
「法律さえ制定すれば、問題はすべて解決!」と言っているわけだこの経済学者は。

一応フォローすると、著者の言うように日本のホワイトカラーの労働時間が先進国で
一番長いのも、特にフルタイム勤務者のそれが過去15年間下がるどころかむしろ増えて
いるのもそのとおりだ。
だが、その理由は、クリントンやサッチャーの陰謀などではなく、単に終身雇用では
雇用調整ができないから、企業が基本的に残業で対応しようとする点にある。
多少の需要が増えても採用増より残業でカバーすることを選び、不況になれば新卒採用を
打ち切ってさらに正社員の残業を増やす。景気の良し悪しに関わらずサラリーマンは
残業漬けになるわけだ。

今後、新興国との競争が強まる中、コストカット圧力は増すだろうから
男性正社員の残業はさらに伸びるに違いない。

しかも80年代以前みたいに、そのうち管理職になって一線を抜けるなんてことはないから
定年までそんな調子で行くわけだ。
そのうち新入社員研修で“葉隠”とか読ませる企業が出てきそうだ。
といって、現在の雇用システムのままでは、それしか手が無いんだからしょうがない。

日本においても、解雇規制を緩和すれば企業が新規採用を増やすという調査結果がある。※
イデオロギー抜きで、真剣にワークライフバランスと雇用状況の改善を図るなら、
流動化に舵を切るべきなのは明らかだろう。

最近、職場の派遣さんが切られて仕事が増えたと嘆く人がいるが、それも理由は同じ。
フルタイム勤務で過労気味の人間が溢れる一方で、仕事にあぶれた失業者が列を成す。
で、どっちも少子化につながると。
これこそ、日本の労働市場の持つ非効率性の真髄だろう。
正規と非正規、どちらも苦しませている壁が、昭和的価値観であるのは言うまでもない。



※99年、慶応大学産業研究所調査。
 整理解雇が容易になれば従業員を増やすと解答した企業が減らすと回答した企業の三倍近い。

雑感@民主党代表選挙

先週、民主代表選について、月曜日発売のアエラにコメントしたので
ここでも簡単にまとめておきたい。
それにしても、土曜日実施で月曜日発売なのだから、なんとも間の悪い話だ。
結果の出ている選挙について、結果のわかる前にコメントするのだから。
誰かが言っていたが、もう少し時間をかけても良かったんじゃないか。

代表選自体は、事前の予想通り鳩山さんに決まった。
いろいろインタビューを見ていて気づいた違いは、消費税に対するスタンスの違いだ。
鳩山氏が「今は議論すらしない」と切り捨てる一方で、岡田氏はかねてからの自論である
「消費税増税と基礎年金部分の税方式化」を明言。

これが結果的に締まった印象を与えていたと思う。
増税なんて言ったら選挙で勝てない、かといって何も言わないではユートピアだの
宇宙人だの叩かれるし若年層も取り込めない。
そこで鳩山さんを緩衝材としつつ岡田氏でスパイスを効かせるという風に、両者の間で
何らかの役割分担が出来ていたのではないか。
(そういう点では、麻生政権はなんとも締まりのない印象だ)

スピード代表選といい、代表決定後の迅速なポスト配分といい、どうも緩やかな
アウトラインに基づいて動いているような気がする。

それから、国債発行だけは両候補とも強く戒めていたのがとても印象的だった。
この点は与野党問わずコンセンサスが出来ている事項ではあるのだが、
「100年に一度の~」という免罪符で安易に規律を緩めることなく、次世代への
アピールも意識しているということだろう。

ちなみに民主党応援団長の森永卓郎は
「たった15兆しかばらまかないから自民はダメ、50兆ばらまけ」
と断言している(『THE 21』6月号)。こんなバカに応援される民主党もいい迷惑だろう。

新左翼とロスジェネ

新左翼とロスジェネ (集英社新書 488C)
鈴木 英生
集英社

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若手記者の手による新左翼とロスジェネ運動の解説。
全共闘や安保闘争など、新左翼運動の歴史が8割を占める。
それは一言でいえば、迷走と凋落の歴史だ。
戦後民主主義という枠組も、現状維持を望む中産階級も、そして革命を忘れた既存左翼も
否定した彼らは、いろいろなスローガンや地場の運動と結びついて拡散していく。

三里塚に篭るグループがいる一方で、三菱重工を爆破したり、テルアビブ空港で機関銃乱射
したりするグループも出現。そのどれもが、今となってはひどく虚しい。
いや、冷戦真っ只中では何がしかの意味があったのかもしれないが、今となっては
もう歴史である。

さて、こういう思想的な流れとロスジェネにいかなるつながりがあるのだろうか。
著者が提示するキーワードは“自分探し”だ。
家族やムラと言った共同体が崩れる中、居場所の無い個人を受け入れ、目的を与えて
くれる場所。それが新左翼であり、反貧困などのロスジェネ運動だとする。

確かにそれはある。正社員だとなんのかんのいっても職場という名のコミュニティに
強制加入させられ、飲みニュケーションとか言って酒飲まされるわ盆暮れ正月の付き合いは
あるわで、今でも共同体は存在する。
だが非正規雇用労働者は、通常そういった共同体には入れない。
そういうワーカーに属し、実家という溜めもない人間にとって、フリーター系の労組は
一種のヤドリギだ。

読みやすく、良く構成も練っている。
惜しい点は、そういう疎外論的な類似性だけでなく、直接的なつながりにも切り込んで
欲しかったことか。
フリーター系の労組や非正規雇用問題を扱う団体は、たいていどこかしらの政治団体が
バックについている。そして共産党系と新左翼系は、今でもあまり仲がよろしくない。
たとえば、共産系はいわゆる普通の組合的な主張をするが、新左翼系の中には
日本型雇用自体に否定的な組織も少なくない。
(昨年、『世界』で日本型雇用を見直せと提言したグループがこれだと思われる)
もし続編が出るのなら、彼らの方向性や理論について、掘り下げた論を期待したい。

それにしても。
居場所を求めて連帯するのは悪い話ではないが、果たして、従来のままの“左翼”
というフィールドに、それを求めることは正しいのだろうか?
以前、面識のあったフリーター青年の一人に数年ぶりに再会した時のこと。
「最終的に、大企業は解体されるべきだと思います」
と言われて目が点になったことをおぼえている。

以前はごく普通のフリーターの兄ちゃんだったのだが、どこかのユニオンに入って活動
するうちに、革命的気概に満ちた革命戦士に育成されてしまったらしい。
いくら目的を見つけられたといっても、
果たしてこれは、本人にとっていいことなんだろうか?

20年くらい経ってから、今の幼稚園児くらいの世代に「虚しいよね」と言われそうな
気がするのだが。


孫は祖父より1億円損をする

孫は祖父より1億円損をする 世代会計が示す格差・日本 (朝日新書)
島澤 諭,山下 努
朝日新聞出版

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世代間の受益と負担の格差を計算し、世代間格差を浮き彫りにする世代会計について解説。
「モノ言う若者の会」と今後発表予定の若者マニフェストの話も一部登場している。
(正確には、マニフェストはいくつかの団体の合同なのだが)

ある程度、こういった問題について興味のある人には
だまされないための年金・医療・介護入門―社会保障改革の正しい見方・考え方
をお勧めしたいが、入門書としては本書を幅広くお勧めしたい。
著者の言うように、問題の存在をしるきっかけになるはずだ。

内容については、バブル崩壊以降、日本全体が痛みを伴う改革の代わりに、主に国債に
頼って次世代にツケを廻し続けた現状が延々と続く。
これでもかい、というほど続くが、事実なんだからしかたない。
そして受益と負担の格差は、今後生まれる世代と現在の老人との間で1億円近くにまで
拡大するとする。

ツケ回しの代表例は、04年の年金制度改革だろう。
過去の積み立て不足分400兆円が、ほぼすべて現役世代の保険料引き上げと
税金(これも現役世代の負担だろう)で穴埋めされてしまったものだ。
守られたのは、日本の純資産の8割を保有する高齢者の既得権だ。
「賦課方式だから、若者は奉仕しろ」というロジックだけで正当化できるだろうか?
僕にはどう考えても、今の2,30代の老後が、今の老人ほどに豊かだとはとてもとても
思えないのだ。ならば、賦課方式自体を見直して、基礎年金部分の税方式といった積立方式
に移行すべきではなかったか。
さらにいえば、年金制度最大の問題は、恐らく無資産・無家業・基礎年金だけで老後に
突入する非正規雇用層だ。今、雇用と年金の双方で手を打たないということは、最終破壊的
なツケの先送りではないのか。
「未納者が多くても破綻はしない」などという言い訳は詭弁に過ぎない。

その400兆円と国債と今後増加するであろう社会保障給付分(+経済危機対策のバラマキも)
を背負って、若者は国を引っ張っていかなくてはならないわけだ。
余談だが、国債と言うのは単純に消費の先食いのことだ。
今でも稀に「国内向け内国債だからいくら刷っても云々」という人間がいるが、
以前も書いたように、貸し手と返し手が違うわけだから、これも世代間格差生産装置だ。

たとえば。
「あなたのお爺様はとても満ち足りた生活をし、お父様はそこそこの人生を送ったのだから
あなたは生涯賃金半分でも年金半分でもトータルでは幸せなのですよ我慢しなさい」
と言われて納得する人間などいるだろうか。
しかも償還のために増税するなら、結局は国債など金融資産を持っている家計に無資産の
家計から補填することになり、文字通り中流はさらに追い詰められることになる。

ということから考えて、「良い国債」とは、子や孫からみても十分に価値を生むもの
あるいはそういう価値を生み出すような改革
に使うべきだというのは明らかだろう。
断じて橋でも道路でも金持ちのバラマキでもない。
そういう価値とは何か、価値を生む改革とは何かという議論の代わりに、
「うちは15兆円!」「じゃあうちは21兆円!」という議論が政治の場で
なされている状況は、絶望的かもしれない。

では、誰が悪いのだろうか。
まずは政治家か。確かに責任は重大だが、彼らは国民によって選ばれているわけだから
選挙で淘汰しなかった有権者も同罪だ。
ならば国民に正しい知識を伝える義務を怠ったメディアか。
これも間違いなく有罪だが、彼らは国民の見たがるものを流してきただけに過ぎない。
ダイヤモンドの「正社員を賃下げしろ」というコラムや
NHKラジオでの「派遣社員の3年で正社員ルールを凍結すべき」という学者の発言に
抗議が殺到する現実を見てもわかるとおり、視聴者側もまったく同罪だろう。
ならば、エコノミストや学者はどうか?
残念ながら民主主義体制ではいかなる学説自論も自由に流布可能なので、商売のために
モリタクみたいなのが暗躍して百家争鳴となるのはやむをえない。

要するに、社会全体に責任があるのだ。もちろん、きっちり意思表示しなかった若手にも
責任はある。

著者は、ちんたら議論している余裕は既に無く、与野党問わず日本の未来のために
協力しろと説くが、現状では議論すら始まっていないというのが実情だ。
なんだかんだ言いつつも、今の日本はまだまだ心地よい国なのだろう。
それでもこの手の本が続いて世に出るようになっただけでも、良しとするべきか。

週刊ダイヤモンド 最新号


特集『大失業・減給危機』 インタビュー掲載中。

ところで先日、近所の書店の新書コーナーに久々に行って気づいたこと。
“雇用”に関する新書がやたら目に付く。
経済系よりは、法律、社会学系が多く、新書に関していえば労働再規制的な色合い
が強くて、ウーンという感じ(まあサッパリ売れてないようなのでいいけど)。

そして先日、知り合いの記者から言われたこと。
「最近、雇用特集組んでも雑誌が売れないんですよねぇ」
そういえば某誌は全然取り上げなくなったような。
同じようなことはテレビ局のディレクターも言っていた。
派遣切りは数字が取れなくなったから、もうわざわざ取材には行かないんだそうだ。

こういう流れからは、一般的な中産階級の考えがうっすら見えてくる。
彼らは自らの雇用に対する不安には敏感だが、必ずしも社会問題の解決自体に関心がある
わけではないのだろう。だから「あらまぁ派遣切りだって!」という感じで一時的に
関心は持つが、とりあえず自らには及ばないとわかると“飽きる”のだろう。

結局、従業員数が数万人クラスの大企業がどっかんどっかん轟沈するとか、
サラリーマンの平均年収が中国沿海部のそれと並ぶくらいに低下するとか
(このままの産業構造ではいずれそうなる)、行くところまで行かないと
目が覚めないのだろう。
新年早々、ちょっと物音がして気になったが、今はまた眠りに落ちたということか。

穴から徐々に浸水してきて気が付いたら溺れてるというよりも、ドカーン!と氷山にでも
ぶつかった方が、結果的に傷は浅いような気がするのだが。
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