新左翼とロスジェネ

新左翼とロスジェネ (集英社新書 488C)
鈴木 英生
集英社

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若手記者の手による新左翼とロスジェネ運動の解説。
全共闘や安保闘争など、新左翼運動の歴史が8割を占める。
それは一言でいえば、迷走と凋落の歴史だ。
戦後民主主義という枠組も、現状維持を望む中産階級も、そして革命を忘れた既存左翼も
否定した彼らは、いろいろなスローガンや地場の運動と結びついて拡散していく。

三里塚に篭るグループがいる一方で、三菱重工を爆破したり、テルアビブ空港で機関銃乱射
したりするグループも出現。そのどれもが、今となってはひどく虚しい。
いや、冷戦真っ只中では何がしかの意味があったのかもしれないが、今となっては
もう歴史である。

さて、こういう思想的な流れとロスジェネにいかなるつながりがあるのだろうか。
著者が提示するキーワードは“自分探し”だ。
家族やムラと言った共同体が崩れる中、居場所の無い個人を受け入れ、目的を与えて
くれる場所。それが新左翼であり、反貧困などのロスジェネ運動だとする。

確かにそれはある。正社員だとなんのかんのいっても職場という名のコミュニティに
強制加入させられ、飲みニュケーションとか言って酒飲まされるわ盆暮れ正月の付き合いは
あるわで、今でも共同体は存在する。
だが非正規雇用労働者は、通常そういった共同体には入れない。
そういうワーカーに属し、実家という溜めもない人間にとって、フリーター系の労組は
一種のヤドリギだ。

読みやすく、良く構成も練っている。
惜しい点は、そういう疎外論的な類似性だけでなく、直接的なつながりにも切り込んで
欲しかったことか。
フリーター系の労組や非正規雇用問題を扱う団体は、たいていどこかしらの政治団体が
バックについている。そして共産党系と新左翼系は、今でもあまり仲がよろしくない。
たとえば、共産系はいわゆる普通の組合的な主張をするが、新左翼系の中には
日本型雇用自体に否定的な組織も少なくない。
(昨年、『世界』で日本型雇用を見直せと提言したグループがこれだと思われる)
もし続編が出るのなら、彼らの方向性や理論について、掘り下げた論を期待したい。

それにしても。
居場所を求めて連帯するのは悪い話ではないが、果たして、従来のままの“左翼”
というフィールドに、それを求めることは正しいのだろうか?
以前、面識のあったフリーター青年の一人に数年ぶりに再会した時のこと。
「最終的に、大企業は解体されるべきだと思います」
と言われて目が点になったことをおぼえている。

以前はごく普通のフリーターの兄ちゃんだったのだが、どこかのユニオンに入って活動
するうちに、革命的気概に満ちた革命戦士に育成されてしまったらしい。
いくら目的を見つけられたといっても、
果たしてこれは、本人にとっていいことなんだろうか?

20年くらい経ってから、今の幼稚園児くらいの世代に「虚しいよね」と言われそうな
気がするのだが。


孫は祖父より1億円損をする

孫は祖父より1億円損をする 世代会計が示す格差・日本 (朝日新書)
島澤 諭,山下 努
朝日新聞出版

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世代間の受益と負担の格差を計算し、世代間格差を浮き彫りにする世代会計について解説。
「モノ言う若者の会」と今後発表予定の若者マニフェストの話も一部登場している。
(正確には、マニフェストはいくつかの団体の合同なのだが)

ある程度、こういった問題について興味のある人には
だまされないための年金・医療・介護入門―社会保障改革の正しい見方・考え方
をお勧めしたいが、入門書としては本書を幅広くお勧めしたい。
著者の言うように、問題の存在をしるきっかけになるはずだ。

内容については、バブル崩壊以降、日本全体が痛みを伴う改革の代わりに、主に国債に
頼って次世代にツケを廻し続けた現状が延々と続く。
これでもかい、というほど続くが、事実なんだからしかたない。
そして受益と負担の格差は、今後生まれる世代と現在の老人との間で1億円近くにまで
拡大するとする。

ツケ回しの代表例は、04年の年金制度改革だろう。
過去の積み立て不足分400兆円が、ほぼすべて現役世代の保険料引き上げと
税金(これも現役世代の負担だろう)で穴埋めされてしまったものだ。
守られたのは、日本の純資産の8割を保有する高齢者の既得権だ。
「賦課方式だから、若者は奉仕しろ」というロジックだけで正当化できるだろうか?
僕にはどう考えても、今の2,30代の老後が、今の老人ほどに豊かだとはとてもとても
思えないのだ。ならば、賦課方式自体を見直して、基礎年金部分の税方式といった積立方式
に移行すべきではなかったか。
さらにいえば、年金制度最大の問題は、恐らく無資産・無家業・基礎年金だけで老後に
突入する非正規雇用層だ。今、雇用と年金の双方で手を打たないということは、最終破壊的
なツケの先送りではないのか。
「未納者が多くても破綻はしない」などという言い訳は詭弁に過ぎない。

その400兆円と国債と今後増加するであろう社会保障給付分(+経済危機対策のバラマキも)
を背負って、若者は国を引っ張っていかなくてはならないわけだ。
余談だが、国債と言うのは単純に消費の先食いのことだ。
今でも稀に「国内向け内国債だからいくら刷っても云々」という人間がいるが、
以前も書いたように、貸し手と返し手が違うわけだから、これも世代間格差生産装置だ。

たとえば。
「あなたのお爺様はとても満ち足りた生活をし、お父様はそこそこの人生を送ったのだから
あなたは生涯賃金半分でも年金半分でもトータルでは幸せなのですよ我慢しなさい」
と言われて納得する人間などいるだろうか。
しかも償還のために増税するなら、結局は国債など金融資産を持っている家計に無資産の
家計から補填することになり、文字通り中流はさらに追い詰められることになる。

ということから考えて、「良い国債」とは、子や孫からみても十分に価値を生むもの
あるいはそういう価値を生み出すような改革
に使うべきだというのは明らかだろう。
断じて橋でも道路でも金持ちのバラマキでもない。
そういう価値とは何か、価値を生む改革とは何かという議論の代わりに、
「うちは15兆円!」「じゃあうちは21兆円!」という議論が政治の場で
なされている状況は、絶望的かもしれない。

では、誰が悪いのだろうか。
まずは政治家か。確かに責任は重大だが、彼らは国民によって選ばれているわけだから
選挙で淘汰しなかった有権者も同罪だ。
ならば国民に正しい知識を伝える義務を怠ったメディアか。
これも間違いなく有罪だが、彼らは国民の見たがるものを流してきただけに過ぎない。
ダイヤモンドの「正社員を賃下げしろ」というコラムや
NHKラジオでの「派遣社員の3年で正社員ルールを凍結すべき」という学者の発言に
抗議が殺到する現実を見てもわかるとおり、視聴者側もまったく同罪だろう。
ならば、エコノミストや学者はどうか?
残念ながら民主主義体制ではいかなる学説自論も自由に流布可能なので、商売のために
モリタクみたいなのが暗躍して百家争鳴となるのはやむをえない。

要するに、社会全体に責任があるのだ。もちろん、きっちり意思表示しなかった若手にも
責任はある。

著者は、ちんたら議論している余裕は既に無く、与野党問わず日本の未来のために
協力しろと説くが、現状では議論すら始まっていないというのが実情だ。
なんだかんだ言いつつも、今の日本はまだまだ心地よい国なのだろう。
それでもこの手の本が続いて世に出るようになっただけでも、良しとするべきか。

週刊ダイヤモンド 最新号


特集『大失業・減給危機』 インタビュー掲載中。

ところで先日、近所の書店の新書コーナーに久々に行って気づいたこと。
“雇用”に関する新書がやたら目に付く。
経済系よりは、法律、社会学系が多く、新書に関していえば労働再規制的な色合い
が強くて、ウーンという感じ(まあサッパリ売れてないようなのでいいけど)。

そして先日、知り合いの記者から言われたこと。
「最近、雇用特集組んでも雑誌が売れないんですよねぇ」
そういえば某誌は全然取り上げなくなったような。
同じようなことはテレビ局のディレクターも言っていた。
派遣切りは数字が取れなくなったから、もうわざわざ取材には行かないんだそうだ。

こういう流れからは、一般的な中産階級の考えがうっすら見えてくる。
彼らは自らの雇用に対する不安には敏感だが、必ずしも社会問題の解決自体に関心がある
わけではないのだろう。だから「あらまぁ派遣切りだって!」という感じで一時的に
関心は持つが、とりあえず自らには及ばないとわかると“飽きる”のだろう。

結局、従業員数が数万人クラスの大企業がどっかんどっかん轟沈するとか、
サラリーマンの平均年収が中国沿海部のそれと並ぶくらいに低下するとか
(このままの産業構造ではいずれそうなる)、行くところまで行かないと
目が覚めないのだろう。
新年早々、ちょっと物音がして気になったが、今はまた眠りに落ちたということか。

穴から徐々に浸水してきて気が付いたら溺れてるというよりも、ドカーン!と氷山にでも
ぶつかった方が、結果的に傷は浅いような気がするのだが。

『THE 21』 6月号


特集『不況をチャンスにする仕事術』
インタビュー掲載中。

内容を少しフォロー。
まあ要するに、のんべんだらりと過ごさずに、一定の自己投資もしといた方がいいよと
言う話なのだが、そういう話をするときまってされる質問がある。

「何をやったらいいのかわからないのですが…」

若手のビジネスマンだけでなく、東大生からもよく聞かれるセリフだ。
恐らく、こういう人は現状に対する認識、基礎となる土台が不足しているのだと思われる。

そこで、そういう人は、とりあえずは本を読むといい。
世の中を俯瞰するために、経済誌+ノンフィクション・経済書をプラスα。
もちろん、経済誌の代わりに最初は新聞でも構わない。
これらは世界地図となり、自分の住む世界を照らしてくれるだろう。
そして、各自の専門分野に関する書を月に数冊程度、読むといい。
これはGPSとして、自分の位置を教えてくれるはずだ。
そういうことを半年続けてみれば、なんとなく課題や方向性は見えてくるだろう。

「自分の専門分野がわかりません」という人は、とりあえずママに相談だ。

労働者を受け入れるということ

虚栄の帝国ロシア―闇に消える「黒い」外国人たち
中村 逸郎
岩波書店

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本日、テレビタックルに録画インタビューで出演予定。
テーマは移民だ。問題の構造については以前書いたとおり。移民議論の前に労働市場の
流動化、効率化が必要だという話。

さて、直接移民問題とは関係ないのだが、外国人労働者に関する書籍を一冊紹介。
労働問題を考える上で、示唆の多い一冊だ。

移民にしろ出稼ぎ労働にしろ、受け入れ側には一定のコストが発生する。出稼ぎ労働者の
未就学児童など放置していた日本も、帰国費用の負担など一定の配慮はみせている。
そういうコストを一切切り捨てた国がロシアだ。
02年、ロシアは旧ソ連邦諸国の労働者が合法的に就労する手続きを意図的に厳しくし、
結果的に彼らが不法就労せざるをえないように法改正した。
理由は、彼らに社会的なインフラを与えないためだ。
ロシアに滞在する出稼ぎ労働者は1500万人以上、なんとその9割が不法就労である。
あのアメリカで不法滞在がだいたい一千万人強だというから、ロシアは事実上の
不法就労数No1国家になったわけだ。

こうしてロシアは、労働法の枠外で安く使え、失業給付も医療保障も負担する必要がなく、
さらには不況時にはとっとと追い出せる便利な労働力を手に入れることとなった。
仕事はロシア人が嫌がる低賃金の重労働。怪我をして働けなくなったら追い出し、死んだら
こっそり埋めに行く。もうメチャクチャである。
いや、そういうところで働かせてもらわざるをえない旧ソ連邦諸国の経済状況もメチャクチャだが…。

さらにロシアは、こうして囲い込んだ“奴隷”に対し、国はもちろん社会全体でたかるのだ。
警察は摘発のかわりに毎週巡回して袖の下を集め、雇い主はピンハネし、市民は彼らに
名義を貸す。そうやって元同国人にたかって復興したロシアは虚栄の帝国に過ぎないと
著者は断言する。
不法就労という形をとることで合法的に負担をパスしているわけだ。
タジク人からみれば悪魔かもしれないが、ロシア人からすればプーチンは名君なのだろう。

同様のケースに中国がある。
中国は都市と農村部の戸籍を分け、教育や医療と言った社会インフラを(都市部では)後者
には与えず、農民工として労働力だけを使い捨てている。ロシアがやったことを、自国内で
やっているようなもので、そりゃ暴動も頻発するわけだ。

「やはり共産圏は民度が低い」と思った人もいるかもしれない。
でも、自国民を正規と非正規雇用にわけて、後者を使い捨てに
している日本も、あまり他国のことは笑えない。


人の振り見て我が振り直せだ。
移民を入れる前に、最低限、労働市場の流動化と同一労働同一賃金くらいは
実現しておくべきだろう。
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