雑感@アゴラ・シンポジウム

昨日行なわれたアゴラ・シンポジウム。
僕は第一部だけの出席だったが、全体的にもとても充実したイベントだったようだ。

ということで、簡単に雑感。

まず、会場の熱が凄い。普通、この手のイベントというのは、仮に予約が埋まった
としても、当日は一定のキャンセルが出るものだ。
当日小雨、有料で満席になるとは正直驚いた。
「なんでこんなに人多いの?ホントに不況なの?」(西和彦氏)
という言葉に妙に納得。

そして、その西氏の存在感は圧倒的だった。
障りのない範囲でコメントを書くと。
「首相が100年に一度の不況なんて言うな」
「世の中なんて変わらない、自分を変えろ」
「システムが崩壊するのを見て楽しめ」
マイク握った瞬間に会場の空気を持っていく力量は、さすがカリスマだ。※1

その他、具体的な内容についてはここでは述べないが、印象に残ったのは
池尾先生のミュータント論だ。※2
曰く、経営層とコア正社員の一体化は雇用規制の強い欧州でも見られる現象であり
(いわゆるインサイダー・アウトサイダー論)、これが雇用の非効率をもたらしている。
この経営層-コア正社員の連帯システムは非常に強固で安定しており、変えるのは
とても難しい。
ただし、既存システムに異を唱える突然変異的なミュータントが一定数に達すると
システムは崩壊する、というもの。

ミュータント的な破壊者(西氏なんか典型だろう)が大勢出てくるのは難しい
だろうなあという雰囲気だったが、個人的にはそこは楽観視している。
というのも、大手の正社員という地位さえ、若者にとっては既に割に合わないもの
となっているから。
今回のイベントの“熱”は、その高まりをあらわしているように思う。
隠れミュータントは確実に増えているはずだ。



※1 会場の沸き具合からするに、恐らく西ファンがかなり含まれているのでは。
※2 池尾先生も中々いいキャラだった。

ルポ 雇用劣化不況

ルポ 雇用劣化不況 (岩波新書)
竹信 三恵子
岩波書店

このアイテムの詳細を見る


「大変だあ、大変だあ」というフェーズ1の話がほぼ全編、97%くらい続く。
まあ岩波の雇用問題だからこんなもんだろうなと予想はしていたものの
いい加減進歩しろよといいたい。7、8年は遅れてるぞ。

ちなみにその“貧乏暇なし”の原因だが、こちらも伝統の「経営者と国が悪い」。
グローバリゼーションというスパイスをブレンドしてはいるが、あまり新鮮味は無い。

そして中盤で介護や流通の例を持ち出し「とはいっても正社員も大変だ」とフォロー
するのももはや定番。
それでもようやく、最後の最後で申し訳程度に解雇規制の存在しないデンマークと
フレクスキュリティに言及している分、進歩はしているか。
まあ最初からそれ以外に解決策なんてありえないんだから、当然の帰結だ。

といっても、著者の歯切れはものすごく悪い。
同一労働同一賃金の規定も無しに国が派遣法を改正したから、ここまで格差が
開いたのだと非難するが、
同一労働同一賃金の実施に頑強に反対し続けているのは連合じゃないか。
そこを認めない限り、百万言つらねたところで価値は無い。

というより、こういうのはご自身の会社で考えてみると、よくおわかりになりますよ。
まあ編集委員というお立場上、いろいろ言いにくい部分もあるでしょうから、私が代わって
シミュレーションしてあげましょう。

某新聞社には給与体系が7掛けの子会社と、そこで使われる契約社員やフリーライターと
いった非正規雇用など、いくつかのヒエラルキーがある。
同じ仕事をしていても、本社様から天下ってきた殿上人と子会社プロパーとフリーライター
では賃金格差が存在し、特に正社員と非正規の間には大きな溝がある。

さて、この状況で同一労働同一賃金を実施すると…
誰がどのくらいの価値の仕事をしているのか、職能給ではわからないから、とりあえず
本社様の正社員の平均賃金である1500万円ほどみんなに支給するとしよう。
人件費は大幅にアップしてしまう。経営者が悪いそうだから、とりあえず新聞社社長の給料は
半分だ。それでめでたく同一労働同一賃金は達成!悪徳資本家を懲らしめ、格差も
ワーキングプアも消えました!

…ってなるわきゃないだろう。
たぶん、何人かきわめて優秀な人間はそれだけ支給されるだろうが、それ以外の
非正規雇用は全員クビになり、正社員の残業&編プロの請負が増えるだけだろう。
一部の人の言う「国と経営者が全部悪い」的な政策で生まれる現実はこれである。

新聞社のトップなんて、まあメーカーよりは高いだろうが、それでも一億は貰ってないはず。そんなのをボランティアにしたって、数人しか雇えない。
要するに、労働者間の再分配が機能していないのが問題なのだ。
著者のいうように「市場原理に任せたからこうなった」というのは本末転倒で
ただしくは「市場原理が機能していないからこうなった」と言うべきだ。
よって、まずは市場原理が機能できない原因である規制を外すことが重要となる。

労働者全体へのセーフティネットの整備は必要だろうが、
(恐らく流動化で処遇の下がる)中高年の正社員に対しては既に失業給付という
ものが存在している。それ以上、たとえば賃下げ分は100%保証しろなどという
のは流動化でもなんでもなく、出来ないと知りつつ時間稼ぎのためにばらまく煙幕だ。

そういう矛盾が手に取った瞬間脳裏をよぎってしまうので、僕はもうこの手の本には
とても乗れない。いや、もう岩波ってだけで内容は想像がついてしまう。
何より、労働者ヒエラルキーの頂点に君臨し、年収2000万は貰っている
スーパー勝ち組中高年正社員の著者に
「みんな苦しいのです、だから安易な流動化の議論など避けるべきなのです」
と言われても、申し訳ないけど1gの説得力も感じない。

なんにせよ、岩波の書籍で“労働市場の流動化”に言及したのは初めてではないか。
そういう意味では記念碑的な一冊かも。

大手メディアの年功序列の崩壊

朝日のボーナスがなんと4割も減るらしい。
勝ち組の朝日でこうだから、毎日産経あたりはボーナスなくなっちゃうんじゃないか。

とはいえ、この不況の最中。そんな会社は珍しくもない。
景気が良くなった時に、大盤振る舞いを期待すればいいのだから。
そういう意味では、新聞業界にはとても同情している。
というのも、たとえ景気が回復したとしても、恐らく新聞業界の
パイ自体は、以前の水準には回復しないだろうから。

これは構造的な問題なのだ。

たとえば自動車の場合、需要が回復すれば以前に近い水準までは戻れるかもしれない。
電機にしても、サムソンや台湾企業に勝てれば、90年代のような水準にまでは
戻せるだろう(きついとは思うが)。
新聞の場合、地盤沈下しているので競争しようにも相手がいない。
あえていえばネットか。

こういう時、職務内容を基準に賃金が決まっているのなら、不要な業務を見直すか
全員の水準(業績連動分)を引き下げるかして人件費をカットできる。
要するに、その職務の相場が訂正されるわけだ。
どちらにせよ、世代間格差は発生しない。

ところが日本企業の場合、ただなんとなく毎年少しずつ積み上げてきて、しかも突然
積み上げ作業を中断するわけだから、若い世代ほど不利になる。
東大出て○○新聞社に入って勝ち組になれるはずだったのに
やってられるかよ、となってしまう。


似たようなケースでは、テレビ局もそうだ。
既にTBSが数年前から、新人は別会社扱いとして給与体系を別物にしていたが
日テレも昨年より給与体系を切り替えて抑制し始めている。
ちゃんとルール化している分、銀行や新聞より真面目であるが、ツケの先送りと
言う意味では変わらない。

とにかく、“最後の昭和的楽園”であったメディアでも、
いよいよ年功序列のレールが 崩れ始めたということだ。


余談だが、どうして新聞はネットの有料サービスを充実させないのだろうか。
日経が始めるらしいけど、「あらたにす」みたいな変なサイトではなく、3社分の
全紙面および20年分のバックナンバー読み放題なんてサービスがあれば、
いくらでもお金は払うんだけど。

古舘伊知郎にダメ出しされる野党三党


先週金曜日、報道ステーションを久しぶりに見ていたら
(嫌いと言うわけじゃなくて、テレビ自体をあまり見ないから)、
終了直前に古舘さんが
「郵政民営化自体は必要です、早く進めて貰いたい」
と締めていてビックリ。
いや、何ということはない正論なんだけど、この人が言うとそれだけでサプライズな印象が。

現在、かんぽの宿売却を巡って、実に不毛な政治闘争が行なわれている。
こんなのは製造業なら当たり前の話で、たとえば民間企業がリストラの一環として
不採算事業を売却する際、製造ラインに100億円かかっていようが、二束三文で
譲渡するのは普通のことだ。
現時点で赤字垂れ流している以上、企業側としては一刻も早く処分したいわけで
さらに高給取りの正社員という固定費もぶら下がっているわけだから、逆に一部費用を
負担するなんてこともある。

この問題は、そういう世事に疎い大臣を、郵政利権が無くなると困る官僚が担ぎ出して
騒いでいるに過ぎない。
彼らの言う郵政文化とは「郵政関連会社219社への天下り」のことだ。
余談だが、先週のダイヤに鳩山さん(アルカイダの友人の友人の方)のインタビューが
載っていたが、なんべん読んでも言ってることがよくわからない。
減損処理で収益性を高めたから売値が下がるという大臣の発想こそマジックだ。

本来なら、こういう大臣の存在は格好の攻撃材料のはず。
日本国民にとって最大の不幸は、同じように世事に疎そうなお兄ちゃんが野党第一党の
代表に就いてしまっていることかもしれない。
友愛もいいけど、もっと大事なこともあるでしょう。
国民新党と社民党には1gの期待もしていないが、一緒に騒いでいる姿をみると、
民主党もたいがいである。
こういうバカ騒ぎで有権者が喜ぶと本気で思っているのなら、民主党の体質は案外、
古い自民党そのものなのかもしれない。

郵政選挙でなぜボロ負けしたのか。一度くらい真摯に反省会でもしてみたらどうか。

「貸せない」金融

「貸せない」金融―個人を追い込む金融行政 (角川SSC新書)
小林 幹男
角川SSコミュニケーションズ

このアイテムの詳細を見る


自己責任という言葉がある。お酒を飲むのもタバコを吸うのも、もろ手を挙げて
褒められたものではないが、とりあえず自己責任ということで認められているものだ。
もちろん、一定の規制はある。未成年は手を出してはいけないし、酒を飲んだら
車の運転もNGだ。要するに自己責任といっても万能薬ではなく、社会との関わりを
考慮したバランスこそ重要なのだ。

06年、金融業でバランスの見直しがされた。貸金業法の改正により、
ノンバンクは利用者の年収の3分の1を上限とする総量規制及び、上限金利の引き下げ
(いわゆるグレーゾーン金利の撤廃)を課されることとなった。
「サラ金なんて、借りるやつの自己責任」という無為無策から、法による適正化へ
踏み出したわけだ。これで、
�@善良な市民がサラ金に手を出し、高利に苦しむ状況
は消えて無くなるはずだった。

ところが。
昨年より、全国のノンバンクの倒産が相次ぎ、急速に無担保融資という市場が縮小し
続けている。代表例は、沖縄県下No1シェアを誇った信販会社オークスの倒産だろう。
きっかけは、過去のグレーゾーン金利に対する過払い金請求だった。

僕は別にサラ金を使ったことも今後使う予定もまったく無いので、業界がどうなろうと
知ったこっちゃないのだが、一つだけ気になったことがある。
というのは、この規制によって、いったい誰が得をしたのかということだ。
まず、融資の利用者は本当に救われたのだろうか?
確かに、パチンコで負けて、ふと隣をみるとサラ金のATMがあって、思わず借りて
しまって、なんて人は減るだろうし、これを気にギャンブルから足を洗えるだろう。
実際に沖縄では、07年に39万人いた貸金業利用者が翌年には22万人に減ったという。

だが、この17万人は、本当にギャンブル地獄から開放された幸運な人々なのだろうか。
仮にそうだとしても、なぜ08年において、ヤミ金との接触者および利用者ともに
増加しているのか。結局、借金の理由はどうあれ、借りたいという人はノンバンク
規制程度で減るわけではなく、彼らはヤミ金に流れるだけではないのか。

「ヤミ金のような非合法なモノに手を出すほうが悪い」
という人もいるだろうが、その自己責任論は�@段階での自己責任論とどう違うのか。

そして根本的な疑問は。仮に徹底した摘発と厳罰化で全国からヤミ金すらも一掃
したとして、それで利用者は幸せになれるのだろうか。

著者は商工ローン(中小零細企業向けの無担保融資)のメリットを上げつつ、新規の
融資が激減し、干上がっていく中小企業の実態にも言及する。
銀行には相手にされない、政府系の融資や保証は一ヶ月以上の時間がかかるという彼らに
とって、緊急の資金を融資してくれるのはノンバンク以外になかったのだ。
彼ら中小企業は喜ぶどころか、規制を呪いつつ店を畳むか、ヤミ金に手を出す他ない。

そもそも、オークスは完全な悪であり、東京から出張してきて過払い請求原告団を組織した
弁護士は本当に正義の味方なのだろうか。というのも、この改正で唯一自信を持って
「得をした」といえるのは、彼ら弁護士だから。

かつてリーマンに勤務した著者がたじろぐほど、過払い金の分捕り合戦は凄まじいという。
本書を読むと、ハゲタカとは一体誰のことなのかわからなくなる。

著者は経済の動脈を干上がらせる愚を避けるべきだとして、総量規制及び上限金利の緩和を
提案する。そして過払い金の請求などは、多重債務者に限るべきだとする。
規制と自己責任のバランスを考える上で、優れた良書だ。
シンプルな文章に良く練られた構成も万人向けである。

スポンサーリンク


ENTRY ARCHIVE
著作
「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話


若者を殺すのは誰か?


7割は課長にさえなれません


世代間格差ってなんだ


たった1%の賃下げが99%を幸せにする


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代


若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
MY PROFILE
城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
castleoffortune@gmail.com
RECENT COMMENT
SEARCH
QRコード
QRコード
お問い合わせ
お問い合わせはこちらまで