東南角部屋二階の女

テレビにありがちな浮世離れした職場も、生活感の無いだだっぴろいマンションも
出てこない。現代日本の“普通”を描いた作品だ。

メインとなる登場人物は3名。若手のサラリーマンとその先輩、そしてひょんなことから
知り合いとなった女性一人。彼らはそれぞれ、違った現実に直面し、様々な閉塞感を
抱いて生きている。
ふとしたきっかけで、3人は取り壊し寸前のボロアパートで共同生活を送ることになる。
さあ、3人とアパートの運命やいかに、というのが大まかなストーリーだ。

ここまでなら、テレビドラマでもありそうな話ではある。
ただ、3人の閉塞感と言うのが、実に実に等身大かつタイムリーなのだ。
会社内に未来が見出せない若手社員、仕事と現実の板ばさみになる女性、
三十路に入り、個人の意思を超えた責務を前にして逡巡する青年。

これらのいづれにも覚えが無いよという人は、少数派なのではないか。
いや、昔は結構いそうな気もするが、レールが崩れてしまった今となっては
各自で進み方を考えないといけないわけだ。

そういう意味でも、それぞれの結論もあくまでも等身大に徹している。
ここでは直接触れないが、あえて一人だけあげるとすれば、加瀬亮演じる若手の出した結論
が一番好きだ。
はっきりとはイメージできないけれど、書きなぐっているうちに
綺麗な絵になるかもしれない。

そんな生き方である。

「恋人にしろ仕事にしろ、彼はすべてを失ったじゃないか、やっぱり何はさておき
辞めない事こそ肝心なのだ」
なんて言う人もいるかもしれない。
でも、本当にそれがクレバーな選択なのだとすれば
今の日本はもう少し明るい社会であるはずだ。


今ふと気づいたのだが、もう一つの軸として、ボロアパートとそこに関係のある老人たち
という存在があるように思う。
彼らは昭和そのものではあるが、けして昭和的価値観に染まって生きてきたわけではない。
劇中、主人公(西島秀俊、加瀬亮)以外にも、組織で昭和的に生きる人が何人か登場するが
彼らはみな追い詰められたギリギリの雰囲気を漂わせている。
その点、老人や畳屋のオヤジといったアウトサイダーたちは、対照的なまでに朗らかだ。
今を生きようとする若者にとって、とても示唆に富む作品だろう。

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トランスフォーマー

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“35歳”を救え~あすの日本 未来からの提言

昨夜のNHK総合『“35歳”を救え~あすの日本 未来からの提言』について。
団塊ジュニアの現実を率直に取り上げた良い企画だったように思う。
特に注目すべきは、過半数の人が、今後給料が上がることは無いだろうと実感している点。

90年代までなら、主任(係長)⇒課長⇒部長と出世していくことで基本給を上げる流れに
加えて、職級がそのままでも、昇給で緩やかに基本給の上昇が期待できた。
だから、その頃には50代でヒラでも、若手の課長以上に支給されているおじさんが多かった。

だが、もうそれはない。ほとんどの企業は30代以降での昇給を抑制しているから、
課長部長の出世魚コースに乗れなかった人(40歳あたりでは約7割に上る)は
ほとんど横ばいの給与で余生を捨扶持で飼われることになる。


別に誰が悪いわけでもない。人件費の原資が増えなくなったのだからしょうがない。
成長率が落ちるとはそういうことであり、「もう成長はいらない」なんていう意見は、
昨日のVTRに出てきたような人生を標準として受け入れろ、ということだ。

考えられる対策は
�@原資増加分の分配から原資全体の再分配にシフトする
�Aパイ自体をなんとかして増やす
の二点だが、�Aのためにも�@は必須なので、結局は雇用体系を180度、抜本的に
見直すしかない。

それやらねば、番組でも述べられていたように、企業はコスト削減のためにますます
非正規雇用比率を引き上げねばならず、非正規雇用および周辺的正社員(中小の下請け)
の待遇は、新興国のホワイトカラーレベルに収斂していくだろう。
非正規雇用比率が過半数を超えている韓国が、今のところ日本の10年後の社会像
にもっとも近いと思われる。
格差社会なんて生ぬるいものではなく、本当の階級社会の到来だ。
(ひょっとして、一部の人たちはそれを狙っているのだろうか?)

余談だが、僕の同期で大企業や新聞社に入って、格差やワープアなんて他人事とばかりに
生きてきた連中の間でも、上記のような悲観論が圧倒的だ。
もうダメだ、就職は失敗だった、毎年の海外旅行も、BMWも、子供二人を私学に
通わせることも夢のまた夢。とてもオヤジたちの世代のような暮らしは出来ない、と。

要するに、良い大学へ行って大企業に就職すれば報われるという
昭和的価値観は、 東大卒という比較的恵まれた層においても崩れ
そしてそれは将来の予測ではなく、現実となっているのだ。


特に10代20代の人は、上記の現実をおぼえておくといい。

それから最後。なかなか良い視点だったのだが、積極的雇用政策について取り上げるのなら
労働市場の流動化も触れるべきだろう。両者はセットで運用して初めて意味を持つものだ。
ちなみにイギリスは、最近まで労働時間に関する規制すらなかった“世界一規制の少ない国”だ。
(それでも過労死なんて聞いたことがない。それが起こりえるのは、終身雇用という名の檻
に入れられた奴隷だけだ)。

こういう問題は、身近なもので想像してみるとわかりやすい。
たとえば、職場の40代の人間への研修費を倍に増やすだけで、ポスト不足は解消するだろうか?
大学院への助成金を倍に増やせば、ポスドクはみんな優秀になって、教授ポストを手に
出来るのだろうか?
どちらのケースも、流動化が必須である事は明らかだ。

※再放送 
 5月17日(日)午前2時05分~3時18分(16日深夜)総合テレビ予定

VoiceWave season2 池田千尋監督

すっかり忘れていた。
先週から、VoiceWave season2が限定で再スタート中。

今回のお相手は、昨年、初の長編映画が封切られた池田千尋監督。
映画については別途レビューを書くので深くは触れないが、非常にがっしりした作品である。
鑑賞後に「監督が20代の女性」と聞いて少し驚いたのをおぼえているが、今にして思えば
そうだからこそ出来た作品かもしれない。
なんというか、アラサーにとってはタイムリーなテーマなのだ。

今回いろいろと話していて一つ気づいたことがある。
生粋のアウトサイダーというのは、自分ではそうだと自覚していないということ。
池田監督は中学から映画の世界に憧れ、高校からメガホンをとり、その目的のために
大学へ進んだ。だから受験も頑張るし、就職も(迷いはあったらしいが)ブレはしない。

「いやあ、そりゃ天然もののアウトサイダーですねえ」
「え、そうなんですか?昔からこうですけど」
といった具合で、監督の中ではすべてが完結している。

恐らく、これが本来の自然な生き方なのだろう。
そしてただしい高等教育機関の使い方なのだろう。
医学部ならどこでも良いとばかりに、北海道から琉球まで受験して回るのも、
大手であれば何でもござれとばかりに、電通からソニーまでエントリーして回るのも、
どこか非人間的と言うかモノトーンな感じがしてしまう。

もちろん、それで得られるものもあるのだけど、
確実に何かをバーターで失っていて、
それは中年以降にボディブローのように効いてくる

と、なんとなくいろいろな人を見ていて思うのだ。

ところで、映画を見ている時。「設定がものすごくリアルだ」と思っていたが
『若者はなぜ3年で辞めるのか』が参考にされていたらしい(笑)

新卒一発勝負の弊害


先日紹介したVoiceセレクト。
高橋俊介氏(慶応大)のマネジメント論に、いくつか興味深い視点が述べられている。

・人材の成長には流動性のある環境こそ重要であり、そちらに手を入れずに
「年功序列だ、 数値目標だ」とやったところで意味は無い。
・輸出主導型の産業はもう伸び代がなく、これからは工業社会向きの均質な人材よりも
 多様性のある人材が価値を持つ。

等、非常に優れた視点だ。個人的に注目したのは、六大学対象の調査で明らかになった
という、
「自分に自信がある学生ほどリスク型の就職を目指し、
自信の無い学生ほど安定志向である」
という結果。

年功序列制度とは要はその年齢層の平均賃金のことであり、平均以上の人は損で
平均以下の人材にとっては美味しい仕組みなのだから、こうなるのは当然である。
自動車や電機の採用担当者の中には「最近の学生はバカになった」と嘆く人がよくいるが
自分の会社が割に合わない会社に成り下がっただけだ。
学生は合理的な選択をしているにすぎない。

ただ、課題もある。リスクを取りたい優秀な学生(ただの自信過剰かもしれないが)
は間違いなく増えている。だが彼らのふつふつとたぎるマグマを受け入れてくれる器が
なかなか存在しないことだ。
外資はもともと椅子の数が少ない上、外銀が採用数を激減させているので
器になりきれていない。

となると起業しかないのだが、こちらは相変わらず低調だ。
理由ははっきりしている。※1
新卒カードがあまりにも重過ぎることだ。
日本において起業するということは、昭和的価値観に歓迎してもらえる唯一のパスポートを
自ら捨てることを意味する。特にエリートほどカードは重いから、優秀者ほど安定志向という
アメリカの真逆な現象が起きてしまう。
そりゃ何十年やろうがMSもグーグルも出てきませんわな。
実は個人的には、年功序列の最大のネックはここかもしれないと感じている。

氏は(まあコンサルなので当然だが)色々と社内での人材育成改革について提言してはいるが
個人的には日本企業が自主的に変わっていくのは非常に困難だと考えている。
この状況を打破するには、

�@トップダウンで一気に流動化を進め、新卒カードを無意味化する
�A新卒カードで貰えるものが激減するまで、待つ。


といったところか。
経済状況をみるに、意外に�Aの方がメジャーになるかもしれない。


※1
フォローしておくと、起業といってもゼロから会社を作るというわけではない。
数名での立ち上げに参加するか、10名程度のベンチャーに参加するという選択肢も
含めての話で、実際にはそうやって経験を積む人の方が多数派だ。
これなら、ぐっとハードルは下がるだろう。

クビ切り不要!?

クビ切り不要! (Voice select)
Voice編集部
PHP研究所

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『Voice』誌の注目された論を集めた新刊に、僕の「労組不要論」も収録されているので紹介。
これもオムニバスなのではあるが、それなりに書き手を選んでいるので整合性がある。
先の本がフェーズ1で騒いでいるとすれば、この本はほぼフェーズ2でまとまり、政策に
ついて触れている。

ただタイトルの“クビ切り不要論”というところに若干無理がある。
というのも、首切りというのは雇用調整しないとやっていけない会社がやるものであって
そういう会社に「クビキリ不要ですよ」という処方箋は物理的にありえない。
無理なものをやれというと精神論しか出てこないというのは、大戦以来の日本のお家芸である。
しょっぱなの丹羽さん(伊藤忠会長)伊丹さん(東京理科大)対談はまさにそれで、結局
「絆を大切にしよう」という美しいが身の無い響きのスローガンに落ち着く。

余談だが「(雇用維持と企業存続の両立は)物理的に無理なので税金で何とかしてください」
と言っているのが今の電機だ。
50代はもろ手を挙げて賛成だろうが、それ以下の世代は近い将来、何らかの形で負担
することになるから取られ損である。これも世代間格差の生産装置だ。

だが、一番の注目は中谷巌の『北欧型「転職安心」社会』。
なんと、フレクスキュリティに言及しているではないか。
グローバル化で終身雇用は文字通りには維持できないから、流動化と再就職支援をセットで
やって労働力の移動を促進しろという論旨だ。
これはそのまま、構造改革派のいう労働ビッグバンそのものだ。
というか、僕が言っていることをオブラート5枚くらいで包むと、そうなる。
めんどくさいから包まないけど。

フォローすると、中谷氏と言う人は90年代構造改革派のブレーンの一人で、昨年
『資本主義はなぜ自壊したのか』という本を出して決別を宣言。あちこちで話題となった人だ。
本自体には特にコメントする価値は無い。米国型の構造改革はダメですね、日本は
日本の伝統に基づいた和の精神でやっていきましょうという、保守派の守旧派に見られる
論法に過ぎない。経済にしろ雇用にしろ、現状の諸問題はすべてそのご自慢の日本型
システムが破綻しかけている結果に過ぎず、それをどうするのかというビジョンは皆無だ。

彼の主張を若者視点で言えば、
君たちは我々老人を支えるために、未来なんか捨てて下支えしろ、となる。

そういう著書の出し方をしておいて、ある程度の読者リテラシーの予想される誌面では
上記のような主張をするというのは、はっきりいってずるいでしょ中谷さん。
そりゃ御本人はいろんなメディアに引っ張りだこになったろうが、その負の影響を
考えたことがあるのだろうか。
週刊金曜日からVoiceまで、彼の言説は現状維持を望む守旧派に向けて、盛大に
垂れ流されている。あと数年で逃げ切れる世代にとって、中谷氏はマルクスや田中角栄
よりもご利益のある免罪符だ。

そういえば、先週の週刊文春でも、トンデモ精神科医の香山リカが性懲りも無く
「ホリエモンが台頭する一方で、格差が拡大した」と改革批判を繰り広げ、
「中谷先生もそれを悔いてザンゲしているのよ!」とちゃっかり理論武装に使っている。
というか、なんでホリエモンが上場したら格差が拡大するのか。
若年層の格差でせっせと商売しているのは、香山リカ本人だろう。

この手の印象論でしか語れない門外漢は、具体的な事例は何一つ示せないので
説得力は皆無なのだが、中谷イズムがブレンドされることで、オバちゃんのヨタ話
も信じてしまう人がいるかもしれない。

そういう氏の二枚舌ぶりを鑑賞する上でも、有益な一冊である。
途中から脱線してしまったが、書評だけで新書一冊書けそうなくらい充実。
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若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
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