過労死は誰の責任か

twitterで過労死に関する議論が盛り上がっている。筆者はどちらが良い悪いというつもりはないが、一応、実務畑の観点からフォローしておこう。


過労死や過労自殺というのはそれほど珍しい話でもなくて、管理部門の人間なら直接見聞きしたことはあるだろう。ただ、巷間言われているような「激務に押しつぶされた結果」というような分かりやすいケースは実はほとんどない(だから、稀にそういうケースがあるとニュースになる)。

実際には「過労死認定ラインぎりぎりで働いていたけど、プライヴェートでもいろいろストレスがあってそれらが重なって限界到達」のようなケースが多い。それを後から「会社の責任だからなんとかすべきだった」と言われても会社としても手の打ちようがないのが実情だ。

筆者の感覚だと、たとえ過労死認定ラインを残業時間月50時間に下げても、同じような神学論争は続くと思う。しょせん他人の限界、およびその原因なんて、本人以外にはわかりようがないから。

では、抜本的な処置としては何が必要か。それは突き詰めれば「きついと本人が感じたらぷいっと辞められる環境」だろう。一か月くらい南の島に行ってのんびりしたり、実家帰って畑仕事手伝ったりして、気が向いたらぶらっと再就職活動して、前とそんなにそん色ない職に就ける流動的な労働市場こそ、過労死を減らす特効薬だろう。

「人生で一度しか使えない新卒カードを使い憧れの大手広告代理店に入ったんだから、絶対に辞められない」みたいな現状こそ過労死の根源だと筆者は思う。

ついでに言うと、同じ構図は“少子化”や“男女間の賃金格差”にも当てはまる。一度離職してしまうと非正規雇用にしか就けず、生涯賃金が2億近く減る、という事情がそうした問題の根っこにはある。

共働き妻が会社を辞めざるを得ない深刻事情

映画「万引き家族」

先日、某所の試写会に混ぜていただいたのでレビュー(なるべくネタバレしないように書くけど多少は勘弁)。

筆者は基本的に予備知識ゼロで見る人なので、本作も受賞ニュースの時にちらっと目にしたシーンを基に「マンションのはざまに残された平屋で、時に万引きに手を染めつつ家族が力を合わせて生き抜く格差社会映画」みたいなものをイメージしていたのだが、結論から言えばまったくそうしたテイストの映画ではない。

祖母の年金と古ぼけた平屋にたかるような形で、父と母とその妹、主人公の少年は暮らしている。父は日雇い、母は潰れかけのランドリー工場で働いているが、それで賄えない分は父と少年がコンビを組んで万引きで手に入れる日々だ。といって暗さとか悲壮感みたいなものはまるでなく、一家は和気あいあいと幸せそうな生活を送っている。

だが、どこかがおかしい。違和感がある。両親と高校生の娘でバイトすれば普通に生活できるくらい稼ぐのは難しい話ではないだろう。祖母の年金と家があるのだから万引きするほど切羽詰まるとは思えない。そもそも、二人の未成年者は学校にも行っていない。まるで家族全体で人目を避け、あえて周囲との交流を絶っているかのようだ。

ある冬の夜。父が、通りがかった団地の廊下で一人震えていた少女をみかねて家に連れ帰る。少女の体は傷だらけで、ひどく虐待されていた事実を知ると、家族は少女を6番目の家族として受け入れることを決める。ここにいたって、一家は実は血のつながった家族ではなく、それぞれが居場所を求めて集まって出来たふきだまりにすぎないことが明らかとなる。

「血のつながりではなく、自分で選んだ絆の方が強いってこともあるかもしれない」みたいなセリフが印象に残る。

6人で奇妙な生活は貧しいがどこか懐かしい昭和の匂いがする。みなで海に遊びに行ったり、縁側で隅田川花火(の音だけ)を楽しんだり。かつてあったが時代の流れとともに失われた共同体がそこにはある。

でも、現実には自分たちで選んだ絆はもろいものだった。ある出来事をきっかけに家族は完全崩壊し、みなそれぞれのいるべき場所に戻っていく。でもいるべき場所に戻っても、もう誰一人笑ってはいない。全体のテイストとしては「誰も知らない」を連想させるが、このあたりのテーマは「そして父になる」の方が近いだろう。

最初、エンディングはとても悲しいものに思えたが、逆に考えると、一人でもあの家族を懐かしみ、本当の絆を見出していた人間がいたことは、むしろ“救い”なのかもしれない。

若手を辞めさせないためには何をすべき?と思った時に読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。
ある調査によると、日本の若手社員のうち「2年以内に転職したい」と回答した人の割合が37%と、前回調査より7%も上昇していることが明らかになりました。

【参考リンク】「2年以内に転職したい」若手社員の4割に 民間調査

世界平均が43%ですから、だいぶ世界標準に近づいたわけです。法律や人事制度はなかなか変わりませんが、少なくとも35歳以下の若手は自分たちで勝手に流動化し始めていると言っていいでしょう。

ちなみにその理由はシンプルで「40歳以降の出世や昇給に大して期待できない」と考える若手が増えた結果、自力でより魅力的な仕事を探し始めたということですね。最近のメガバンクなんかが典型でしょう。

とはいえ、組織としては若い戦力が流出してしまうのを指をくわえて見ているわけにはいきません。そもそも若手の流動化は社会にとって歓迎すべきことなんでしょうか?そして、会社はどういった対策をとるべきでしょうか。

転職回数が多いほど労働者は幸せ

結論から言えば、若手の流動化は素晴らしい変化を本人と社会に及ぼすことになるはずです。理由は以下の3点です。

1.本人の仕事への満足度が高まる

終身雇用制度のある日本では10年以上の勤続年数のある従業員の割合は45.1%と、世界最高水準です(国際労働比較2017)。じゃあすぐクビに出来て勤続年数10年以上の人が28.9%しかいないアメリカ人より幸せかと言えばむしろ逆で、仕事に対する満足度ややりがいと言った各種調査では、逆に世界最低水準のものが目立ちます(満足度調査はISSP国際比較調査2005で調査対象32カ国中28位、熱意については以下参照)。

【参考リンク】「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査

転職回数が多い方がそれだけ自分の理想のキャリアに近づく努力をしているわけで、当然の結果ですね。新卒で入った会社で与えられた仕事がたまたま天職でした、という人なんてまずいないでしょう。

というわけで、若い世代がどんどん流動化することで、上記のような満足度ランキングも、これから徐々に上向いていくことでしょう。

2.採用がクリアになり、ブラック企業は淘汰される

90年代まで、日本企業の採用スタンスの基本は「いかに学生をひっかけるか」でした。とにかく明るく風通しの良いオフィスをアピールし、説明会では美辞麗句を並べたうわべだけの説明に終始し、いざ入社してみると「全然逆でした」なんてことはザラでしたね。筆者の後輩でメガバンの就活中にカラーシャツで参加したら「うちはリベラルですから全然かまいませんよ」と人事に言われたのにいざ入行して同じシャツ着て研修行ったら講師に胸倉つかまれて「お前今度色シャツ着てきたら地方飛ばすからな」って言われた奴もいます。

なぜそんなギャップがあったのか。就活で騙して入れちゃえばもう逃げられる心配がなかったからです。

でも若手が流動化してしまったらもう嘘は通用しません。すぐ逃げられる以上、最初から洗いざらい見せた上で納得してくれた人だけを採用した方がコストは低く抑えられます。というわけで最近急速にインターンシップが普及しているわけです。

同じ理由で、いわゆるブラック企業問題も転機を迎えることになります。大手同様の滅私奉公を要求しつつも終身雇用という対価の保証されない「見返りの無い企業」のことですね。実はそうした企業を下支えしてきたのは、「どんな仕事でも芽が出るまで頑張る」と言った昭和的価値観だったりします。そういう価値観を持たない世代が台頭することで、今後は急速にブラック企業も淘汰されるでしょう。

3.企業が人事制度の見直しを余儀なくされる

そして、企業は硬直した人事制度を見直さざるを得なくなります。日本企業には、みんな常識だと思っているけど実は日本独自の奇妙な慣習というのが多々あります。全国転勤や長時間残業、有給の取りづらさといったものですね。それぞれにちゃんと理由はあるんですが、現実問題としてそういう“ムラのおきて”に従い組織は運用されているわけです。

でも「転勤ですか?じゃ辞めます」とか「なんで仕事終わったのに残業しなきゃいけないんですか?」とか平気で言い出す世代が増加すれば、組織は“ムラのおきて”の方を見直さざるを得なくなります。

ちなみに、日本企業の中でメガバンクというのはもっとも保守的な業種の一つだったんですが、筆者はこれからの10年でメガバンクはもっともドラスティックに人事制度が変わると見ています。新規採用の抑制にくわえ(これから銀行のビジネスモデルを刷新してくれるだろうと期待されていた)若手がどしどし流出しているわけですから。カラーシャツに文句垂れたり上役の学歴年次全部暗記したりしてる暇ないでしょう。





以降、
会社は「辞められない組織」より「辞められてもいい人事制度」を作れ
転職を若気の至りとしないために







※詳細はメルマガにて(夜間飛行)








Q:「40歳、一世一代の決断に際して迷っております」
→A:「自分から変化したいと思える人は、とても幸運な人だと思います」



Q:「一人で内定を複数取れる人と取れない人の違いは何でしょう?」
→A:「何か一つ挙げるとすれば、筆者ならインターンの有無ですね」







雇用ニュースの深層

・気が付いたら時価総額1/5以下になっていたNEC

古き良き日本型経営で頑張っていたらこうなりました。



・残業時間に上限をつけろ?昔からあるんですけど

実は国会で働き方改革法案に関する議論が盛り上がらないのはやっても意味無いと野党の側もわかっているからでしょう。



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新人ってどうして空気が読めないの?と思った時に読む話

今週のメルマガの前半部の紹介です。先日、新人と社会人のジェネレーションギャップに関する調査結果が話題となりました。新社会人から見ると職場は知らない常識にあふれ、先輩から見ると新社会人はとても不思議な生き物に見えるとのこと。

【参考リンク】新人VS.先輩 会社で「びっくり体験」ランキング


こうしたジェネレーションギャップはどこから生じるものなんでしょうか?良い機会なのでまとめておきましょう。それは10年後のキャリアを考える上でのよき指標となるはずです。

足踏みする組織、前進し続ける個人

まず新社会人が感じる驚きですが、これはもう何十年も前から共通して存在しているものと言っていいでしょう。(有休取得や退社時間に)就業規則とは違う暗黙のルールがあって空気を読まないといけない、仕事の進め方がアナログ的かつ生産性度外視等、日本企業風物詩と言ってもいいほどです。

筆者自身20年ほど前の新人時代にはいろいろ衝撃を受けた記憶があります。連休中に一日だけ平日がはさまっていて「すいません特に仕事ないんで有休使ってもよいでしょうか」と言ったら「馬鹿野郎!3年目まで有休使っていいのは親か兄弟が死んだ時だけだ!」って言われたのは今では微笑ましい思い出ですね。

あとは17時に仕事終わったんで定時で帰ろうとしたら「馬鹿野郎!総合職は少なくとも20時までは席に残ってるもんだ!定時で帰っていいのは一般職と派遣さんだけだ!」っていうのもありましたね。ちなみにこの「雇用形態ごとの暗黙の退社可能時間」なるものは各社各職場によりますけど総合職だと21時とか22時とかザラですね。

その時間が近づいたらみんなチラチラ横を確認しつつ出過ぎぬように「じゃ、私はそろそろ……」みたいな感じでさくっと身を退くのが正しい日本式の退社方法であります。というと外資の人なんかは「え?だって仕事量には波があるでしょ?早く終わった時はどうするの?」なんて真顔で聞いてきますが、暗黙の退社可能時間に合わせてペース落として調整するのが日本式の美しいワークスタイルであります。新人が驚いたこと第5位に「仕事をダラダラやる」とばっちり出てますけど日本企業で働く以上はそういうもんだと思ってあきらめましょう。こんな雇用慣習維持したまま労働生産性云々を議論するのは野暮というもんです。

では、なぜ日本企業にはそうした一般社会とは異なる独自のルールが存在するのでしょうか。それは、そうした日本企業が人材の出入りを前提としない閉じたムラ社会だからです。職務内容を契約で定める労働者と違い、ムラ型組織の従業員は組織と一心同体、転勤も担当業務も指示されれば何でもやる“正社員身分”の一員となります。だから「自分の担当分しかやらない」という姿勢は許されず、出来るだけ多くの労働力をいつでも提供できるよう職場でスタンバっていることが要求されます。「大雪が降っても職場に行かないといけない」とか「早く終わっても追加で仕事が降ってくる」というのはここに根っこがあるわけです。

「仕事のマニュアルがない」というのも同じですね。人が辞めない前提だから、業務を標準化したりマニュアル化しておく必要がないわけです。じっくり個人が頭の中にノウハウを作り上げ、後任はそれを傍で見て盗むわけです。長期間かけて技を継承していた職人そのものです。

そういう意味では、一般社会で育ってきた新社会人と、閉じたムラ社会である企業とのギャップは過去数十年間ずっと存在したけれども、一定の軋轢を経たうえで新人が企業サイドに無事に染められてきた、と言えるでしょう。

では2018年以降の新人も、やはり従来の企業文化に染まるべきなんでしょうか。筆者はそうは思いません。いくつかの理由からそれはもう不可能だと考えるからです。まず、人手不足が深刻化し労働生産性も低迷する日本で、「暗黙の退社可能時間までチンタラ仕事する」だの「雪で電車止まってんのに“いざ鎌倉”ではせ参じる」といったワークスタイルを維持する余裕はありません。業務プロセスにしても年々若者が減少する以上、様々な年代の人を転職市場からその都度リクルートできるよう、標準化、マニュアル化は不可避でしょう。

なにより、これ以上の社会の進化に目をつぶるのは企業にとって自殺行為でしかありません。上の世代から見た新人が風変わりに見えるのは、多くの場合、新たなサービスやテクノロジーを通じて彼らが上の世代より進化しているためです。それを拒否し続ける企業に未来はあるでしょうか。

ちょっと想像してみてください。「みな空気を読み合って夜遅くまで残業し、夏場は半袖Yシャツ姿のオジサンであふれる会社」と「各人が明確化された担当業務を裁量をもって効率的に進め、構成は老若男女様々で夏場はポロシャツOKな会社」があったとして、10年後に生き残っている会社はどちらでしょうか。自分の子どもにすすめたい職場はどちらでしょうか。聞くまでもありませんね。






以降、
今後10年、社会はこう動く!
新社会人に贈る言葉






※詳細はメルマガにて(夜間飛行)







Q:「経歴詐称はどこまで許されるものですか?」

→A:「客観的に嘘と判断されるものはアウトですが時と場合によります」



Q:「海外駐在でまったく成長しない人って珍しいですか?」
→A:「本社派遣の駐在員がお公家さんになってる会社は結構ありますね」




ショートショート「ジェネレーションギャップ」







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私とグリシン

筆者は学生時代から夜中に3~5回くらい目が覚める体質で、近年は目が覚めるたびにスマホいじって目が疲れたら寝る、の繰り返しだった。別にそれがおかしいとも思ってなくてそういうもんだろうくらいに流していたのだが、知人から「グリシンのサプリを飲むと睡眠が劇的に改善する」と言われて昨夜初めて飲んでみた。

ちなみに筆者はお薬は嫌いなので睡眠薬は飲まないが、グリシンはアミノ酸であくまでもサプリメントという位置づけなので飲んでみた次第。で、結果はというと……








朝5時までぐっすり。5時から二度寝して再び7時までぐっすり。
素晴らしい!
今朝の生産性は5割アップ状態です。

たぶん夜中にちょこちょこ目が覚める人って少なくないと思うんですよ。そういう人がグリシン飲めば日本の生産性もちょこっとは上がるんではないかな。
もちろん本丸は労働市場流動化と職務給への移行ですが。



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「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話


若者を殺すのは誰か?


7割は課長にさえなれません


世代間格差ってなんだ


たった1%の賃下げが99%を幸せにする


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代


若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
castleoffortune@gmail.com
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