書評「銀行員はどう生きるか」






最近のメガバンクの動きを見て以下のような疑問を抱いている人は、筆者を含めて多いのではないか。

・なぜ、昨年後半に唐突に3メガ足並みをそろえて人員削減を決定したのか
・それを受けて若手が流出しはじめたのはなぜか
・メガバンクはどこに向かうのか

上記の疑問をクリアに解説してくれるのが本書だ。

フィンテック企業による本業の侵食、日銀の超低金利政策等で国内事業がジリ貧に陥っていたメガバンクだが、その分、国際業務に注力することでなんとか全体の落ち込みはカバーできていた。リーマンショック後に金融規制が強化されたことで米国の金融機関は手足が縛られ、相対的に自由な邦銀にビジネスチャンスが舞い込んでいたためだ。

だがトランプ政権がオバマ政権の規制を次々に撤廃したことでボーナスタイムは終了。メガバンクは生き残りをかけてコスト削減とビジネスモデル刷新に取り組まねばならない状態に追い込まれた。これが3メガグループの足並みがそろった理由である。

とはいえ、各メガ共に自然減による人員調整には言及していても、文字通りにリストラはやらないと明言している。なぜ若手~中堅の流出は始まったのか。鍵は銀行業界でかねてから行われていたセカンドキャリア制度にある。50歳あたりで総合職の行員を子会社、取引先に片道切符で転籍させる新陳代謝システムだ。

だが、子会社といっても無限に銀行出身の50代を受け入れられる余裕はない。実際にバブル世代を受け入れる余裕は既になくなり目詰まりを起こしているという。また、取引先と銀行との力関係の変化も大きく影響している。現在、優良企業の多くは銀行融資を必要としておらず、銀行OBを受け入れたがる企業は少ない。逆に銀行OBを受け入れてでも太いパイプを維持したいという企業は崖っぷち企業ばかりで、そんな会社に押し付けられた側はたまったものではない。

おそらくセカンドキャリア制度は近い将来形骸化し、その後は製造業のような早期退職や追い出し部屋が運用されはじめるのではないか。仮に転籍させてもらえたとしてもロクな会社ではなくて大きく処遇は悪化するのではないか……これが、自力で転職できる人材から流動化を始めた理由だ。

では、今後のメガバンクはどこに向かうのか。モデルはリーマンショック後に大きくリテール事業を見直した米国の銀行にあるという。日本の銀行支店は基幹店で40~50人、小型店でも十数名の人員が在籍し、支店長といえば総合職のゴールともいわれる一国一城の主だが、米国では多くても3~4名、小型店舗なら1~2名という店舗が現在は主流だという。

事務作業の多くはデジタル化され、店舗の行員の仕事は、端末操作のアドバイスや個別の相談窓口とのセッティングなど、一日中立って行う仕事が中心であり、どちらかというと金融業というより小売業に近い。給与水準も5万ドル前後が相場だ。三井住友銀行の新型店舗は明らかにその方向性を意識したものだという。他行もそれに続くのではないか。

では、メガバンクの構造改革は成功するのか。著者は明言していないものの、行間からは悲観的なオーラが感じられる。

第三章で詳述したように、欧米の銀行は邦銀の先を走っている。彼らが低コストチャネルへの誘導を図ったのは、単なる低コスト化だけが目的ではない。欧米の銀行はデジタル技術の導入によって顧客の利便性を劇的に高め、信頼回復に努めたからであって、機械化したから信頼を回復できたという話ではない。

そのようなインフラ整備を重ねてモデルチェンジを果たすとともに、店舗の銀行員はカウンターの反対側から顧客に応対するのではなく、カウンターを取っ払って顧客ロビーで立ち続け、来店した顧客に寄り添うように応対するようになったからである。

(中略)

結論をいえば、結局、対面ビジネスの銀行業は、対面ビジネスの高さによって同業者はもとより、非対面のフィンテック・プレーヤーにも打ち勝つしかない。デジタル化の技術を活用してコスト削減をしつつ、最大の武器である顔が見える営業で質の高いサービスを提供してこその銀行なのだ。



その点から見て邦銀は何をしてきたかというと、超低金利による収益悪化という逆風の中、営業現場に過大な目標を課して顧客軽視のセールスに舵を切ってきた。系列アセットマネジメントが開発した商品を高い手数料で販売し、空室リスクを度外視してでもアパートローンを売り込んだ。

そういう状況が改善されたと言えない中、コスト削減だけを最優先して現場の人員削減に突入するのは、顧客とのリレーションシップという銀行最大の武器を持たないまま、丸腰でフィンテック・プレイヤーと同じ土俵に上がるようなものではないか、というのが本書の結論だ。

筆者自身もメガバンク各行はいずれ文字通りにリストラを含む抜本的な業務体制の見直しに追い込まれると予想している。

ただし、著者も予想するように、将来的にはメガバンクの人事制度は地に足の着いたずっと風通しの良いものにあるはずだ。地域に根差したリレーションシップ重視のために「3年ごとの転勤」は廃止され、業務内容も勤続年数も小売業に近いものになるだろう。

横並びの処遇は見直され、自身で目標を立てて成長できる人材と出来ない人材の格差は大きく開くことになる。半沢直樹的なドロドロした世界より、よほど居心地のよい組織だと感じるのは筆者だけだろうか。


東京医大ってどうして女性合格者を減らしたいの?と思ったときに読む話

※コメント欄は現在スパム殺到で廃止しているのでご理解を。



今週のメルマガ前半部の紹介です。東京医大が、女性の受験生に一律で減点処理をすることで合格数を3割未満に抑えていたと読売新聞がすっぱぬき、騒動になっています。

【参考リンク】東京医科大による得点操作 前理事長ら3人のみ知るマニュアル存在

ちなみに医師国家試験の合格率は女性の方が3%程度は高いそうです。




ということはあれですか、女性の方が医者の適性があるってことですかね(棒読み)
それとも、ほかの医大も女性だけなんらかのフィルターかけて少数精鋭に絞ってるってことですかね。だとしたら闇が深すぎて死人も出そうな話なのでこれ以上突っ込むのはやめときます、はい。

さて、問題の東京医大ですが、そもそもなぜ女性の合格者が増えるとまずいと考えたんでしょうか。そこには日本企業にも共通のある問題が関係しています。女性と雇用を考えるうえで避けては通れないテーマとして、今回は正面から取り上げましょう。

医大が女性を敬遠する理由

医大というのは高等教育機関であるとともに、系列病院に医者を配属する人材採用&育成機関でもあります。となると、入試=採用活動に際して現場のニーズを完全無視というわけにはいきません。

一般的に言って、女性は結婚や出産を機に退職することが珍しくありません。本人がまだまだ頑張りたいと思っても、夫が全国転勤ありのフルタイム総合職なために仕方なく退職せざるを得ない女性も多いでしょう。

また、女性はハードな外科を避けて皮膚科や眼科を選ぶ傾向が強いとも言われています。「タフで徹夜もばんばんこなせる外科や内科をどんどん送り込んでくれ」という現場のニーズを満たすため、女性の合格者を抑制した、というのが大学側の本音でしょう。

でも、職場の事情で学ぶ機会に性差をもうけるなんて、やっぱりおかしいと感じる人は多いでしょう。意識高い系やフェミニストの皆さんの中からは「女性が働きやすい環境を作るのが筋だ!」という声が上がっています。筆者も同感です。筆者は皆さんと共に歩む仲間です。というわけで「女性の働きやすい職場」を考えてみました。

1.年俸制にして外科の年俸を上げ、皮膚科や眼科の年俸は抑える

横並び基本給だったら、そりゃ誰でも仕事が楽な方に行くでしょう。市場原理を導入してサラリーにメリハリをつければ「外科のなり手がいない」なんてことにはならないはず。実際そうやっている米国で医師の偏在なんて聞いたことがありません。

2.業務範囲を明確にしたうえで、短時間勤務の人のお給料をカットして、その人の仕事を代わりにこなす人の給料を上げる

短時間勤務等にブーブー文句言う人がいるのは、横並びの年功賃金のままで誰かの仕事減らしたり増やしたりするからなんですね。だから実際に担当する業務に応じて賃金を柔軟に上げ下げして、仕事減った人の賃金を下げて増えた人に回せば、だれも文句は言いません。

3.退職した女医の代わりに中途採用する

当たり前ですけど、だれか退職したら中途採用すればいいんです。生え抜きじゃないと通用しないなんてぬかす職場があったらそっちの責任者クビにして慣行を改めるべきです。

4.育休取った女医の代わりに中途採用し、復職時に誰かを解雇する

同様に、誰かが育休を取得して人手不足になったんなら新規に中途採用すればいいだけです。育休取っていた人が復職したら?その時点で誰かを選んで解雇すればいいでしょう。

5.残業ではなく人員増で対応する

日本企業全般に言えることですが、日本型組織は少数精鋭で残業で対応する傾向が強いものです。そこで人員を増やし、残業は抑制させます。仕事が減ったら誰かを解雇することになりますが、女性の働きやすい職場を作るためなんだから我慢しましょう。

 
要するに、横並びの基本給をベースに勤続年数で評価するなんてことはやめて、実際の担当業務に応じた職務給にして、中途採用をばんばん行う流動的な人事制度に切り替えるということです。この辺の処方箋は中高年フリーターが正社員採用されない問題への処方箋と同じですね。

【参考リンク】なんで中高年フリーターって正社員採用されないの?と思った時に読む話

〇〇流医術とかやってた時代と違い、医者なんて本来ポータブルな専門職のはずですから、一般企業よりはるかに流動化に馴染みやすいはずですけどね。

でも、たぶん中にはこんな風に考える人もいるでしょうね。
「そんなのは嫌だ、自分たちの年功賃金は手放したくないし、クビになるリスクとか絶対に受け入れられない、今のままがいい」

そういう困った中高年が少なくないから、医大の入り口段階で、女性だけしこしこ減点するなんてことになったんじゃないでしょうか。

それから「勤務医は徹夜や力仕事があるから現場は男性を欲しがるのだ」といった意見には、筆者はあまり賛成できません。というのも後述するように、徹夜や力仕事と縁のない大企業も、やっぱり女性は敬遠してますから。女性が日本型組織から敬遠されるのは、上記のように硬直した労働市場が一番の原因でしょう。

さて、上記のように終身雇用というのは超がつくほどの男社会なのが現実です。ちなみに東大の上野千鶴子センセイなどは「専業主婦は社畜の専属家政婦」などと命名しておられます(筆者が言ったんじゃないですよ!上野センセイですよ!)。

でも、労働組合や左派のお友達の中には少なくない数の女性がいて「終身雇用ばんざーい!」と叫んでおられます。そういう女性たちは今回のような騒動を見て、なんとも思わないんですかね。まあ「市場原理を受け入れるくらいなら女性の学ぶ権利を制限すべき」って言うんなら話は別ですが。

そうそう、ちょうど今、「LGBTは生産性が云々」とか言って絶賛炎上中の某女性議員がいますね。過去には「女性は家庭に入るのが日本の伝統」なんて発言もあった人です。そうしたスタンスに対し、上記のようなリベラルな女性陣は「女性でありながら男社会におもねって出世する女性の敵」みたいな感じでこれでもかってほどに叩きまくってますよね。

でもはっきり言って、筆者のような立場の人間から見れば、某議員も皆さんも「男社会におもねって男社会に囲われてる同じ穴のムジナ」にしか見えませんよという点は、最後に申し述べておこうと思います。




以降、
企業も新卒採用で女性と3浪以上にばっちり減点かましてます
女性の排除は長い目で見れば大きな社会的損失に






※詳細はメルマガにて(夜間飛行)







Q:「処遇について会社と個別交渉は出来ますか?」
→A:「今ほど、できる従業員が会社と交渉できる時代はありません」



Q:「休職歴はその後の人事にどう影響する?」
→A:「その後のその人次第でしょう」






雇用ニュースの深層
日立はやるやる詐欺の汚名返上できるか



テレワーク十万人をぶち上げた日立ですが、日立ってとにかく人事のフットワーク悪すぎて経営方針に追いつけない会社なのでどこまで本気か要注目でしょう。



新卒一括採用の崩壊

専門性の高い人材に対して、もはや一律の初任給での囲い込みは困難だという話を、大手の採用担当者からしばしば耳にするようになりました。





Q&Aも受付中、登録は以下から。
・夜間飛行(金曜配信予定)







書評「残業の9割はいらない」





キャッチーなタイトルに気をひかれがちだが、本書は残業の減らし方のみにフォーカスしているわけではなく、ヤフーが挑戦している働き方改革全般の解説を通じて、日本型雇用の行く末を示唆する良書だ。

では、著者の考える働き方改革の本質とは何か。それはズバリ「成果主義の徹底」だ。

なぜなら、この制度の裏側には「成果主義の徹底」というコンセプトがあるからです。「時間にとらわれずに自由な働き方をしてください。だけど会社はあなたの成果をもとに評価しますよ」というのが、ヤフーの進めようとしている働き方改革にほかなりません。会社は社員に対して、拘束時間の対価としてではなく成果の対価としてお金を払う。そういう考え方に立っていると言っていいでしょう。


と聞くと、人事に詳しい人などは「本当にそんなことが出来るの?」と思う人も多いだろう。というのも現状、日本企業の評価制度はほぼ形骸化しており、当たり障りのないB評価で固めたり、評価面談も上司と部下の間で年数回行われる“儀式”になってしまっている企業がほとんどだからだ。

成果主義を貫くためには、社員の評価が適正になされていることが大前提となりますが、そのための目標管理制度(MBO)を今の日本企業で正しく機能させるのはかなり困難だからです。詳しくは後述しますが、企業の人事担当者の中で「わが社の成果主義はうまくいっている」と胸を張って言える人は皆無なのではないでしょうか。むしろ「わが社のMBOは形骸化している」というのが実際の感覚だろうと思います。


でも後戻りはできない。グローバルな競争で勝ち残るためには社内制度を世界標準の方に寄せていき、優秀な人材を囲い込む以外にはないからだ。本書に登場する優秀なインド人エンジニアのセリフはストレートだ。

「本間さん、この会社ではなぜ、夕方6時に仕事を終えて帰る人よりも、仕事が遅くて夜中まで会社にいる人の方がたくさんお金をもらえるのか。その理由が僕にはわからない」



では目標管理が日本で機能しづらい原因とは何か。それはずばり賃金制度の違いにある。

米国企業の多くでは、ポジションに応じて「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」という文書が作られ、具体的な職務内容、職務の目標・目的、責任や権限の範囲、そのポジションが有する社内外の関係先、必要とされる知識や技術、資格、経験、学歴などが克明に記されます。これにより、そのポジションに就く社員が遂行すべき仕事や出すべきアウトカムがはっきりしますし、社員の評価もやるやすくなります。


かたや、職務記述書どころか「入社するまでどこに配属されて何の仕事をするのかすらわからない」会社丸投げ方式の日本だと、会社はせいぜい、社員が仕事に投入した時間を買い取るくらいしかできない。早く終わったら暇なのかと思われ追加で仕事を振られ、花見の席取りといった雑用まで降ってくる。

こういう風土のままでは目標管理はワークしないのは当然だろう。筆者自身も常々口にしているように、残業抑制や高プロといった一連の働き方改革の本丸は業務範囲の明確化であり、逆に言えばそれさえ実現できれば、後の問題はほっておいてもかなり改善が見込めるということだ。

「職務記述書なんか作って仕事を切り分けたら、日本企業の強みであるチームワークがボロボロになるぞ」みたいなことを言う日本型経営信者の皆さんには少々ショッキングな現実も紹介されている。

2001年に日本企業と欧米企業で働く従業員を対象に行われた調査では、「職場の仲間が仕事に行き詰まったり、困っていたりしたら助け合いますか」という問いに、日本企業の場合は「YES」が48%と半数にも及ばず、「NO」が31%もありました。これに対し、欧米企業では「YES」が78%、「NO」は7%です。


日本型経営における“チームワーク”なるものは、皆が明るい未来を信じて疑わない状況ならワークするものの、成長が停滞し始めると一転して「ババの押し付け合いになる」というのが筆者個人の感覚だ。

以下、私見。

本書を読んで強く印象に残ったのは、これから日本企業の浮沈を決めるのは人事制度改革の成否ではないか、ということだ。少なくとも10年後に組織として活躍できているのは、上手く成果評価に軸足を移せた企業だけだろう。そして、ヤフーがその最有力候補であるのは言うまでもない。




書評「日本一学生が集まる中小企業の秘密」






無名の中小企業ながら、新卒採用でそうそうたるグローバル企業と競合して打ち勝つ会社があると聞けば、ほとんどの人は耳を疑うのではないか。本書は、実際にそうやって大手食いを実現した株式会社レガシードのトップが明かした採用指南書である。

ちなみに同社は「みんなの就職活動日記 2019卒 インターン人気企業ランキング」では三菱商事やトヨタといったグローバル企業に交じって堂々の32位である。

中小企業でありながらいかに大企業に新卒採用で打ち勝つか。
実は大手の行う新卒一括採用には致命的な弱点がある。人事が採用時に決めているのは採用人数とおおまかな配属先だけだから、学生個人に具体的な仕事を明示できない。だから学生にも必要なスキルを明示できないし、当然配属約束も出せない。結果的に説明会は退屈でつまらないものになるし、インターンは会議室を使った“一日インターン”になる。


それでも気になる企業を見つけた学生は、次に会社説明会に参加します。ところがその説明会に参加した友人たちに様子を聞くと、ほとんどの説明会は寝てしまうほどつまらないのだと言います。ならななぜ、貴重な時間を費やしてまでそのような説明会に参加するのかと尋ねると、そこに参加しなければ次のステップに進めない、つまり選考テストを受けられないからだと言うのです。
(中略)
そしてさらに私が驚いたのは、次の質問への答えです。
「内定が決まった会社に入社したら、どんな仕事をするんだい?」
「そんなことは入社してみないと分からないよ」
内定を出した企業も、採用活動においてどのような仕事をしてほしいのかということを学生に伝えておらず、入社を決めた学生たちも、
どのような仕事をすることになるのかわかっていないというのです。


一般的に言って、優秀層ほど、入社後の配属先やキャリアパスが提示されない新卒一括採用に強い不満を抱いている。幸か不幸か、普通の就活を経験していなかった著者はその矛盾を見抜き、大手の新卒一括採用とは徹底した逆張りで採用活動を展開したわけだ。

(一日インターンではなく)長期間のインターンシップを採用活動のベースとする、求人広告で母集団は作らない、エントリーシートや筆記、面接は重視しない等、同社の逆張りぶりは徹底しており、しかもちゃんと合理的な理由に基づいている。

中でも筆者が感心したのは「新卒採用は即戦力になる」という部分だ。

ここで大切なのは、採用側は学生が入社した時点でどの職務についてどのレベルまで仕事ができるようになっているかという目標を明確にし、そこから逆算して、必要な知識や経験を入社するまでに持たせるような計画を立てることです。


あらかじめ業務内容を明確化することで、意欲の高い人材は主体的に努力するものだ。「まっさらな状態の22歳を3年間かけてじっくり育てる」式の新卒一括採用と比べると、もう入社日の時点で人材レベルに大きな差がついていることになる。

大手の採用担当者は本書を読むと2重の意味で愕然とするのではないか。
まず、こんな採用を行っている会社が日本に実在するのか、という点だ。自社でやろうものなら、経営も各事業部門も人事部も一体となって配属先を確定した上で、現場体験型のインターンを実施しつつ、配属予定部門の幹部が選考に参加するしかない。それは事実上の人事部門から採用権の移譲を意味するから、人事部長はけしてウンとは言わないだろう。

そして、なにより大手の担当者を愕然とさせるのは、採用できる人材レベルだ。優秀層の中には、積極的にリスクを取り自分で新しい事業を手掛けたいし、ゆくゆくは起業もしてみたいと考える人材が一定数いる。実は、それは大手が喉から手が出るほど欲しがっているグループでもある。

同社はそういうグループに、インターンシップという名のもと、会社がリスクをとって自由に挑戦させつつ、自社に取り込むことに成功しているわけだ。

たとえ自社の内定者が300人いたとしても、その中にそうした進取の気性に富んだ人材が何人含まれるだろうか。「定年まで安泰そうだから来ました」「大手ばかりエントリーして受かったのがここだけでした」そういう人材が9割ではないのか……そうした不安に駆られる人事担当は少なくないのではないか。

大手から中小企業まで、本書はすべての採用担当者が読むべき一冊だろう。くわえて、就活を始めてみたけどいまいち手ごたえを感じられないという学生にも良き指南書となるはずだ。

最後に。それでも「やっぱり入るなら大企業でしょ。なんだかんだで安定してるし」という困った大人向けに、同社の若き内定者の言葉を本書より紹介しておこう。

大企業や有名企業を勧める理由は「安定」だからという理由が大きいと思う。じゃあ、何をもって安定というのか。この時代、いつ、どの会社が潰れるかなんてわからない。じゃあ、会社のフレームで「安定」しているより、個人的人間力や能力を成長させて「安定」しているほうが魅力的じゃないでしょうか。








書評「バブル入社組の憂鬱」

バブル入社組の憂鬱 (日経プレミアシリーズ)
相原 孝夫
日本経済新聞出版社
2017-12-09



本書は衝撃的な一文からスタートする。

バブル入社組はいま、会社内での評判がすこぶる悪い。


まあ知ってはいましたけど。ちなみに著者自身もバブル世代。
理由は、年功序列制度が機能不全を起こす中、ちゅうぶらりんな状態で取り残されているためだ。


40代後半から50代社員に対する会社の評価はすでにほぼ確定していると言ってよく、一部の層を除けば、キャリアは頭打ちになっている。さらに従来の年功序列型の賃金制度の運用により、周囲からは貢献度に比べて給与水準が高すぎるとみられていることも多い。

頑張っても、これ以上職位や給与面で報われることは少ない一方で、多くの日本企業では後の章で述べる「役職定年」などを除けば、降格や降給はめったになく、少しくらい頑張らなかったからといって給与が引き下げられることはない。

そのため、人事処遇面においてポジティブな方向へ動機づけることも、または危機感を抱かせることも難しく、弛緩した状態が続いてしまうことになる。
(中略)
最低限の仕事だけをしながら、手堅くキャリアの終わりを待とうとする、退職前から「セミリタイヤ化」する50代スタッフ管理職は意外と多い。下の世代から「使えない」とか「お荷物」と言われるゆえんである。



とりわけ就職で苦労してきた氷河期世代とは相性が悪いらしい。筆者自身はむしろ気のいいオッチャンが多い印象があるが、確かにバブル世代部長、氷河期世代課長の組み合わせはあまりいい評判は聞かない。ちなみに2012年調査によると40代で係長以上の役職に就けているのは5割程度なので、課長以上の管理職は実質3~4割というところだろう。バブル世代の過半数がヒラのまま放置されているわけだ。

同年次で大きな処遇差は設けず、出世への期待感をあおり続けることで40代まで全員をモーレツ社員として働かせてきた日本型雇用は、完全に機能不全に陥っている状況と言っていいだろう。

「バブル世代は恵まれている」と思っている人も多いかもしれないが、本書ではその受難の歴史がつづられる。

・入社後しばらく新人が入ってこなかったため、30過ぎまで最年少として雑用全般をこなし、後輩のマネジメント経験も未熟
・採用数が多いというだけの理由でポストにつけず、前後の世代から無能扱いされる
・苦労して役職についても、役職定年が徐々に低年齢化しており、元・管理職として飼い殺される
・にもかかわらず年金支給開始年齢が上がって65歳まで働かないといけない
・なまじ終身雇用がワークしているときにゼネラリスト育成されてしまったため転職するスキルもない

最後に、著者はバブル世代の特徴を4つ挙げ、その長短を理解し、強みに変えろとアドバイスする。

・コミュニケーション能力が高い
・「根拠なき自信」がある
・会社への依存心が強い
・見栄っ張り

特に、コミュニケーション能力や自己肯定感といった特徴は、相対的に下の世代が苦手とするものだ。肩書、権力、給料へのこだわりを捨て、自らの強みを生かすことができれば、実は不確実性の増す変化の時代においてバブル世代は十分対応できるだけの地力を持っているとする。

さて、ここからは私見。

本書で強く印象に残ったのは、年功序列が形骸化する中、日本企業の職場がもう無茶苦茶なカオス状態に陥っているということだ。たとえば90年代以前のように55歳定年だったらそこまで全力投球できる人事制度がワークしたろう。57歳で役職定年になっても定年60歳なら3年くらいは職場のご意見番として残っていてもさして問題にはならなかった。

でもね、52歳とかで役職定年くらって65歳まで職場に在籍って、それ本人にとっても年下の元・部下にとっても単なる嫌がらせでしょ(苦笑)

本書には、張り切って存在感を示そうと年下の同僚(ていうか元部下)の提案を全力で否定しにかかる元管理職と、抜け殻にようになってしまってあらゆる職責を放棄した元管理職が登場するが、どちらも現場の士気を大きく下げるだけの存在だ。

年功序列型組織の中で、いかに中高年のモチベーションをワークさせるか、筆者の知る限りいまだ明確な処方箋を提示できている日本企業はない。ないけれども、人生の後半戦、そして老後を豊かなものとするためにも、個人でそれを乗り越えていくしかない。

そういう意味では、本書も言うように、バブル世代は「組織の平均年齢が45歳を超える中、中高年社員がいかにして組織をけん引していくか」を身をもって実演して見せる第一世代だということになる。すぐ下の団塊ジュニア世代はもちろん、その下のゆとり世代以降にとっても、本書の提示する現状と処方箋は示唆に富む内容だろう。







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著作
「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話


若者を殺すのは誰か?


7割は課長にさえなれません


世代間格差ってなんだ


たった1%の賃下げが99%を幸せにする


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代


若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
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