書評「逃げられない世代」





日本の財政、社会保障制度の行き詰まりを指摘する本は多いが、本書は以下の2点でとても興味深い。

・元官僚として、日本社会に巣くう“先送り”の病根を示している

政治家は平均すると2、3年で選挙という試練を受けるため、それくらいで有権者から評価してもらえる政策しかやろうとしない。「30年後に社会保障がパンクするので年金カットします」なんて言っても評価されるどころか怒った高齢者に落選させられるのは確実だからだ。

では、終身雇用の保証された官僚が国家100年の計を考えてくれるかと言うとさらに絶望的で、終身雇用型組織特有のローテーションにより、若手~中堅で2~3年、幹部以上なら1~2年であちこちのポストを転々とする彼らは、その期間でできることしかやろうとはしない。

たとえば「業務範囲を定めない職能給で長期雇用させているのが長時間残業と低生産性の原因なのだから厚労省と協議の上、雇用形態の見直しを進めよう」と考える官僚は少なくないはずだが、実際にアウトプットとして出てくるのは「プレミアムフライデー」とかになってしまうわけだ。

ついでに言うと野党がバカなのもちゃんと理由がある。現在の日本では、法案は各省庁が作成し、実質的に自民党の政調会でがちがちに固めた上で国会提出され、野党が何を言おうが一字でも変えさせるのはほ不可能というのが実情だ。国会中継では一応議論しているようにも見えるが、あれはあくまでしているふりだけであり、時間になったらハイ、採決!と言うのだから野党からしたらたまらない。せめて延々とスキャンダル追及で盛り上げるくらいしかやることがない。

twitterではなんでもかんでも安倍総理にからめて笑いを取る小西師匠が人気だが、師匠もきっとボケながら心の中では泣いているに違いない。








・人口動態から「逃げられない世代」を特定

かつて団塊世代には団塊ジュニア世代という、自分たちとほぼ同じボリュームのある受け皿世代が下にいた。だから一千兆円を超える国の債務も、それと同程度存在するとされる社会保障の隠れ債務問題も、なーんにも手を付けないまま逃げ切ることに成功した。

でも、団塊ジュニアにはもはや受け皿となる世代は存在しない。だから、団塊ジュニアが高齢者になる2036年以降、それを支える下の世代、具体的には現在の20~30代は、団塊ジュニア世代を支えつつ、問題を先送りすることなく正面から問題に取り組まねばならない。

具体的に言えば赤字国債に依存しなくても済むよう25兆円以上の増税が必要であり、選択肢は消費税くらいしかないので1%=2兆円として少なくともあと13%、20%台へのの引き上げが必須となるとする。※

「そんなに上げたら景気が悪くなるじゃないか」と心配する人もいるだろうが、もう先送りできないんだからしょうがない。文句はこれまで先送りし続けてきた先輩方に言うといい。

ちなみに、この「先送りできなくなるのは2036年」という数字は、国債が国内だけでは消化出来なくなるタイミングとも符合する。政府としても本腰で財政再建と緊縮に取り組まねばならなくなるはずだ。

ただ、本書のトーンは全体として意外に明るい。著者も述べるように、財政破綻といっても或る日いきなりバターンと倒れるようなものではなく、政府が財政規模の急激な縮小と大規模な増税を短期間で行う形で実現するだろう。消費税引き上げにしても、恐らくはそれまでにちょこちょこ上げていくから、意外に団塊世代や団塊ジュニアも完全に逃げ切れるものではないと思う。

むしろ高齢化という先進国共通の病に対し、良くも悪くもムラ社会的な要素の残る日本人は、協調性を発揮して新たな持続可能なシステムを生み出せるのではないか。

世の中には「見たいものしか見ない」人が多い。で、そういう人向けに「見たいものを本などに書いて売りつける人たち」もいる。「日銀に買い取らせればいつまでも借金できますよ」とか「バラマキで経済成長!」とか言ってる本が典型だ。ま、そういうのが読みたいって人はそれでいいけど、これから先に何が起こるのか、そして、真の意味で“逃げ切れない人”にならないためにはなにをすべきか、に興味があるという人は、本書を手に取るべきだろう。具体的なキャリア設計のプランなども触れられており、参考になるはずだ。


※筆者自身は医療技術の発達等で社会保障給付の一段の伸びを予想しており、消費税25%程度にしてもなお団塊ジュニア世代はそれなりの給付カットを受けることになると考えている。





書評「町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由」






「小さな町工場なのに残業ゼロ、全社員年収600万円以上」という点がNHKのクローズアップ現代等で取り上げられ話題となった吉原精工の会長が、自社の取り組みを詳細に解説したのが本書だ。営業マンを置かない営業テクニックや取引先との信頼関係構築テクニックなども実にこまごましていて興味深い。営業マンや経営者向けとしても良いビジネス書だと思う。

でも、やはり本丸は吉原流働き方改革、とりわけいかにして残業ゼロを実現できたか、だろう。
実は方法については分かっている。というか、それ一つしかない。それは残業そのものを無くし、浮いた残業代を基本給に上乗せして支給する方法だ。

よく現場を知らない労働弁護士なんかが口にする「残業割増し分を引き上げさせることで残業を抑制させる」というのは最悪のアプローチで、企業がその分基本給を減らして残業代に回すから、元を取ろうと従業員がさらに残業するようになるだけだ。

当然、吉原流もその点はしっかり押さえてある。全社員にしっかり説明した上で残業をゼロにし、浮いた金額をすべて固定給に入れるというスタイルだ。結果、全員がいかに無駄を省き、効率的に機械を動かすかに集中するようになり「毎日定時で帰る」と「利益率を高めて賃金アップ」を両立させているわけだ。

むろん、ただ残業するなと言うだけではなく、シフト制を上手く組んで、昼以降に出勤する社員に夕方以降の顧客対応を任せたり、機械の稼働時間を被らないよう調整したりといったトップの工夫も資するところは大きい。

ひょっとすると、タイトルから氏のことを「人に優しい家族主義的経営者」だと思っている人もいるやもしれない。実際には逆で、過去3度の経営危機に際しては文字通りクビを切るリストラを敢行し、ベテラン幹部であっても改革方針に賛同しない人間は容赦なく切り捨てる非情さも持っている。

一言でいうなら、氏は合理主義者と言うべきだろう。

ちなみに、吉原精工ではプライベートには一切タッチせず、社員同士の親睦を図るイベントなどはありません。「楽しいことは会社の外で自由にやって欲しい」という方針です。


給料については、もともと「勤続年数に関係なく能力に応じて決める」という考えです。仕事が速い人、正確な人、工場全体を見て動ける人であれば給料は高くなります。


(サラリーマン時代に)
能力が低い人が残業しているのを見ると「おかしいな」と思っていました。私が時間内に仕事を終えて帰っている一方で、仕事が遅い人は残って仕事をしていました。会社の電気代を使い、さらに残業代を多くもらえるので給料も高くなるということに違和感があったのです。


「仕事で楽をするなんてとんでもない」
「残業を厭わず働くべきだ」
「会議は絶対に必要なものだ」
「1分たりとも遅刻してはならない」
こういった考え方は、私から見れば、たいした合理性はありません。



吉原精工と取引のある、ある大手企業についても触れられている。その大手はリーマンショックに際し、従業員の残業を禁じることで危機をしのぐという経営判断をした。全社一丸となって無駄を見直し、生産性を高めることで、残業の削減に取り組んだわけだ。だが業績がV字回復すると、また以前のように「残業し放題、残業代つけ放題」に回帰し、労使ともに何の疑問も抱かない様子だという。


日本の労働生産性が低いということは、よく知られています。1時間あたりの労働生産性は主要先進7か国で20年連続最下位ともいいます。しかし私は、これは日本企業にまだまだチャンスがあることの裏返しだと思っています。

日本ではムダな残業が山のようにあるのに、GDPではアメリカ、中国に次いで世界第三位です。多くの企業が本気を出して残業をなくし、仕事を効率化し、競争力の高めることが出来れば、どれほどの効果が上がることでしょう。今後の少子高齢化による人手不足解消のヒントになるのではと思います。




書評「ブルックリンでジャズを耕す」







以前から著者は独特の文体をもっていて、それが好きで自分は学生時代、プレイボーイでの連載を読んでいたこともある。その独特のセンスは本作でも健在だ。

アメリカ生活が9年目に入って僕の舌にも変化が出始める。あんなに毛嫌いしていたアメリカの食べ物ががそうでもなくなり、おいしいハンバーガーやステーキに、逆に飢えるようなことが増えてきたのだ。皿を傾けて、盛りつけられた肉に肉汁をかける瞬間のスリル。ミディアムレアに焼いた肉の中からにじみ出る旨味、深み。それはまるでジャズのフレーズをひとつひとつ覚えるがごとく、自分の体の中で日常の味となってゆっくりと根付き、汗になるサイクルを繰り返し始めていた。


本作を読むまで、筆者はなんとなく大江千里という人物は「何歳からでも挑戦することを諦めないタフガイ」をイメージしていて、だから日本で確立したポップシンガーの地位を捨てて渡米したんだろう的なことを想像していたのだが、結論から言えばそれはぜんぜん間違いだった。

けして器用ではないが音楽が好きで、自分が関心をもったこと、好きなことを追求できる純粋さを持った少年。本書からはそんなイメージが浮かぶ。だから、本人からすれば「十人十色♪」と歌っていた時とノリは変わっていなくて、ただ世界中からクリエイターが集まり常に変化しているニューヨークという街に行きついたということなのだろう。実際、引っ越し癖のあった氏は、いまではブルックリンに落ち着き、ツアーから戻るたび「故郷に帰ってきたかのような安心感」さえ感じられるという。

これは筆者自身も感じていることだが、人間は40代半ばにもなると、今までやってきたことの延長戦上でしか動こうとしなくなる傾向がある。本当は日々の暮らしの中に必ず興味を引くものや新しい刺激が隠れているのだが、それらに目をつぶって過去の積み重ねに腰掛けようとする。人生100年時代、これは実にもったいないことだと筆者は思う。

キャリアデザイン指南としても本書は示唆に富む。47歳で渡米し名門の音楽学校に入学してからは、ものすごい勢いでお金が銀行から減っていく。英語の授業にも十分にはついていけないからプライベートで家庭教師も雇わねばならない。でも常に前向きに、自己管理を徹底することで、最後にはちゃんと成長という結果がついてくる。バブル期、「自分の銀行口座残高すら知らなかった売れっ子シンガー」の面影は既にそこにはない。

僕はいつしか3年になり、4年を迎えつつあった。次の人生を前向きに考える時期に差し掛かっていた。その頃になると、自分に投資するお金と節約するお金を、かなりストイックに使い分けていた。こんなことが自分にもできるんだという新たな自己発見。客観的に節約ができたかどうかと厳密に問われると微妙だ。しかし「節約できた」が重要ではなく、「何に使い何に使わない」という「メガネ」を新調したことが大きな進歩だったのだ。


最後、特に印象に残った一節を引用して終わりとしよう。たかが40歳や50歳で人生消化試合モードに入っている人はまだ間に合う!考え直そう!

僕がブルックリンでジャズを耕し始めてから6年以上の歳月が流れている。運命という言葉がもしあるとすると、それを変えることはできるのだろうか?もしかしたら難しいのかもしれない。しかしながら自分がどう生きるかというのは自分自身が決めることだ。そう考えると今まで生きてきた道は自分自身が選んだものであり、これからはまた新しく思いのまま「作っていく」ものだ。
(中略)
音楽は人生を深く生きるためのテキストブックだ。練習をし知識を増やし技を覚え、また練習する。そして今、僕は過渡期にいる。次の次元に行くためもがいている。60歳から始まるであろう新しい“青春”に向かって。



メガバンクの優しいリストラの先に待つもの

今週のメルマガ前半部の紹介です。今年に入ってからメガバンク各行の“リストラ”が話題になっています。その安定性と好待遇から、かつて就活の花形であったメガバンクの変調に世間の関心も高いようです。ただ“リストラ”といっても、大手製造業のように実際に人を切ったり追い出し部屋を作ることはなく、基本的に新規採用を減らして定年退職者の補充を行わないことで10年ほどの期間をかけて実施するとのこと。腐ってもメガバンクということでしょう。

【参考リンク】メガバンクのリストラで何がどう変わるの?と思った時に読む話

さて、人に優しいメガバンクは今後どうなるのでしょうか。10年後、生まれ変わったメガバンクが誕生するのでしょうか。組織というものを考えるいい機会なのでまとめておきましょう。

人に優しい=みんな無責任ということ

余談ですが、筆者は「人に優しい」という言葉が大嫌いですね。そういうことを看板にする会社はたいてい後でガタガタになります。人に優しいというのは、裏を返せば責任を果たすべき人、痛みを引き受けるべき人が何にもやってないということだからです。

ちなみにリストラといってもピンキリで、メガが鼻高々にやろうとしている「新規採用カットしてベテランが定年退職するのを待ってあげる」というのは製造業が90年代にやってた頃のスタイルですね。はっきりいって20年以上時代遅れです。

なぜ当時そのスタイルが主流だったかというと、多くの企業では「またすぐにバブルみたいな好況がきて、売上げも利益も今まで以上のペースで増えるだろう」とたかをくくっていたからです。要はみんな風任せ、無責任だっただけのことです(ちなみにその時に新規採用枠を減らされたのが就職氷河期世代)。

その後どうなったかは言うまでもありません。失われた20年と呼ばれる出口のないトンネル状態が続く中、製造業は「風向きに期待するのではなく、自分たち自身で変わるしかない」と気づき、2000年代に入ると痛みを伴う改革に乗り出します。製造ラインに加え、従来はタブーだったホワイトカラー職にも範囲を拡大し、辞めさせるべきターゲットをある程度絞り込んだうえでの本当の意味でのリストラを実施するようになったわけです。

もちろん解雇規制が緩和されていない日本では限界はありますが、あの手この手を使って組織として一定の責任は果たしてきたと言ってもいいでしょう。

このみずほトップのインタビューなんて、読んでて「90年代にタイムスリップしたんじゃないか」と錯覚するくらい懐かしすぎて泣けてきます。

【参考リンク】みずほ銀頭取「もうリストラの予定ない」


ですから、メガバンクというのは(トップのおつむが固いのか人事部がぬけているのか分かりませんが)これから彼ら自身、まったく想像もしていなかった未知の経験をすることになるでしょう。





以降、
メガバンクが直面する“いつか来た道”
組織・個人の行うべきサバイバル術






※詳細はメルマガにて(夜間飛行)







Q:「日大の会見はどうしてあんなにグダグダだったんでしょうか?」
→A:「偉い人にダメ出しするのは大変な作業なのです」



Q:「3年間限定ならどうキャリアデザインするべき?」
→A:「ここらで一度職歴を挟んでおくのがオススメです」








雇用ニュースの深層
・流動化に対応し始めた日本企業


人手不足に対処するため、企業が自主的に流動化に対応し始めています。滅私奉公だ生え抜き至上主義だと言っても働き手がいなければ意味無いわけです。


・韓国の経済実験はやっぱり望み薄

最低賃金水準で働いている人には個々の事情があるわけで、お上がどうこう出来るものではありません。







Q&Aも受付中、登録は以下から。
・夜間飛行(金曜配信予定)









韓国の雇用政策が色んな意味で熱い件

韓国の文政権の進める雇用政策が色んな意味で熱い。

最低賃金を思い切って引き上げた結果、むしろ低所得層が大ダメージ被って格差拡大というニュースは日本でも話題となったが、文政権は合わせて労働時間の引き下げも行うとのこと。

【参考リンク】なぜ国民を経済実験の対象にするのか=韓国

7月に施行される週あたりの勤労時間の短縮も国民相手の政策実験となる可能性が高い。企業は混乱しているが、雇用労働部はまだ明確な指針も出せていない。こうした状況で金栄珠(キム・ヨンジュ)雇用労働部長官は「準備はうまくいっている。施行してみて補完する部分は補完する」と述べたのはあきれる。国民は生半可な政府の政策の実験対象でない。「地獄への道は善意で舗装されている」という。最低賃金引き上げと勤労時間の短縮という「美しい」政策のために一時的な対策が続き、結果的に財政が破綻するようなことにならないか心配だ。



筆者は当初、文政権は「最低賃金を上げれば弱者は潤うはず」と単純に信じていただけだと見ていたが、案外と分かったうえでやっているのかもしれない。とすれば、彼らが行おうとしているのは格差是正ではなく成長戦略だ。

新興国にキャッチアップされる中で先進国が経済成長を続けるには、どんどん生産性の高い産業を生み出していくしかない。家電や自動車でアジア勢に追い越されてもグーグルやアップルといった世界規模のハイテク企業を生み出し続けるアメリカが典型だ。

でも、慣れ親しんだ職を捨ててイケてる企業でホワイトカラーとして働いてね、というのはなかなか強制しづらい。勉強も必要だろうし、何より本人にその気がないとどうしようもない。

そういう時に、最低賃金を思い切って引き上げるというのは、意外に有効な政策かもしれない。生産性の低い業種で働くことを規制することで、いやでも賃金も生産性も高い職に移らざるを得なくなるためだ。

実は日本の官僚や経営者の中にも同じ考えの人は結構いて、メディアでもしばしば発言している。

【参考リンク】格差の超簡単な解決策は最低賃金引き上げだ

彼らは巧妙に「労働者はもっと報われるべきだ」というオブラートで隠してはいるが、「もっと努力しろ。気合い入れて働け」というのが彼らのホンネだ。

さて、韓国の話だが、労働時間の引き下げがそれなりの規模で行われるとすれば、企業は正社員を増やさざるを得なくなる。労組は本音では嫌がるだろうけど、結果としてワークシェアリングが進むだろう。「生産性の低い産業から高い産業へ人を移す」のが彼らの狙いなら、一定の効果はあるかもしれない。

ちなみに筆者自身はそういう統制経済みたいな政策には反対だ。人間はそれほど単純には出来ていないので、お上の計画通りには動いてくれないだろう。そもそも、労働者は自分で働きたい場所で自由に働ける方が長い目で見れば幸福なはず。

でも日本にもそういう政策の支持者がいる以上、韓国文政権の「自国民を対象とした壮大な人体実験」には注目しておいて損はないだろう。


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