サラリーマン社長も労組もバクチなんて打ちたがらない

東芝の半導体事業の売却を巡り、日本企業からの応札がゼロというニュースが波紋を呼んでいる。電機はもうフラフラなので単独では無理だが、別業種の大手、たとえばトヨタあたりと組んで2兆円なんとかならないものかとは思うが、とにかく半導体事業というのは投資規模も当たり外れも大きいので二の足を踏んでいるのだろう。

というと、たぶんこう思う人もいるだろう。
「内部留保は過去最高に積みあがってるんでしょう?今こそ投資するべきじゃないの?」

筆者もそれは正論だと思う。でもサラリーマンサバイバルレースのゴール間近のサラリーマン社長はそういうバクチを打ちたがらないし、人生を会社と共に過ごすサラリーマン労組も「そんなバクチ張らなくていいから、将来の不況に備えて貯めておいてくれよ」というのが本音だろうし、経産省もそういう微妙なバランスは理解しているだろうから無理はさせないと思われる。

というわけで、今後も日本企業は特大ホームランは打たないけれども(少なくとも大手と呼ばれる企業に関しては)会社がとぶこともなく、積みあがっていく内部留保を横目で見ながら、不思議な安定が(当面は)続くのだろう。

たぶん20年後の学生にアンケートとっても、1990年バブル期とそっくりな就職人気企業ランキングができるんじゃなかろうか。もちろん、国際社会における日本のGDPとか競争力といったランキングは大きく変わっているだろうが。






書評「医者の稼ぎ方」




タイトルに“稼ぎ方”とあるものの、医療現場の直面する課題から収入、開業医から勤務医までのキャリアパス、医大、そして増加を続ける医療費問題まで幅広くまとめられており、非常に中身の濃い一冊に仕上がっている。将来医者になりたいと考えている学生はもちろんのこと、子供を医者にしたい親御さん、週二日以上徹夜続きで過労死しそうな勤務医、そして公的医療の行方に関心のある庶民の皆さんにもおススメの一冊だ。

著者いわく、(研修医が研修先を自由に選べるようになった)新研修医制度や、ネットを通じた医師転職制度の浸透により、従来の大学病院を中心とした医師の終身雇用・年功序列制度は崩壊にひんしているという。

たとえば90年代なら、慣習的に母校の大学病院で研修させ、月給数万円で“研修”の名のもとに月200時間超のサービス残業を命じることができ、研修後には配属先を僻地含む全国各地の系列病院に指定でき、逆らったら「一切就職の世話をしない」(他のマトモな病院もそういう“奉公かまい”の医者は採らない)と言えば社会的に抹殺できた時代、大学病院の終身雇用・年功序列は黄金時代だった。「白い巨塔」はその当時の価値観に基づいた作品だ。

でも現在の新人はきつい研修先は選ばず、残業もせず、辞めたその日からスマホでバイトや再就職先が紹介してもらえる時代だ。きつい科は避け、保守的な病院には集まらず、当直が続くと辞めてしまう。結果、古いカルチャーの残滓の中で育った中堅オジサンドクターが「臨床教授」のような乱発ポストで士気を高められたうえで最前線に投入されているという。

でもやっぱりそこは終身雇用、年功序列だから、仕事できないセンセイは定時で帰って仕事できる先生に手術などが集中、基本給はあんまり変わらないために「ヤブほど時給が高い」という日本型組織の十八番状態が出現し、それに嫌気の差したオジサン先生も医師転職紹介サイトに登録して流動化という末期的状態が出現している。

病院を退職まではしなくても「在籍したまま空いた時間にバイト」というのはどこの病院でも珍しくはないらしい。病院側としても、もはや医師をつなぎとめるだけの処遇は用意できないから、バイトを黙認せざるを得ないわけだ。ローンや養育費を抱えた勤務医の中には「僻地の診療所、年末年始5日間の当直で100万円」といったバイトに通う先生もいるらしい。


読者の中には「タイヘンだぁ!私たちの大事な医療制度が破たんしかけている!やっぱり長時間残業OK、転職×の古き良き日本型雇用に戻してあげないと!」と思う人もいるやもしれないが、心配ご無用。何かが崩壊すれば、その後には必ず別の何かが再生するものだから。一足先に崩壊の進んだ産科が好例だろう。

06年、福島県立病院での死亡事故で産科医が逮捕(後に無罪確定)されたことをきっかけに、産科志望者は激減し、一部の有能な医師に業務が集中することとなった。そう、「業務量と給料のアンバランス」の拡大である。

「このまま在籍すれば過労死してしまう」と有能医師たちは続々と流動化し、フリーランスで「一回〇万円」という明朗会計で業務を請け負うようになった。

こうなると病院に残された選択肢は2つ。産科から撤退するか、人件費分配を抜本的に見直し、本気で産科医療に取り組むか。全国的に分娩施設は効率的に集約され、産科勤務医には相応の報酬が支払われるようになり、それを見た若手研修医の中で産科志望者が回復、結果的に産科はきわめて筋肉質な組織に再生したのだ。

ちょっと前に三重の公立病院で「年俸5520万円の産科医の求人」がニュースになったが、それほど驚くべき数字ではないらしい。腕の良い産科医がフリーになればそれくらいは普通に稼げるので、囲い込むなら同じだけの処遇を用意するのは当然のことだから。

もともと医者の業務そのものがある程度ポータブルな点も大きいだろうが、日本の労働市場全体も、緩やかに同じ道をたどりつつあるように見える。ビジネスパーソン的にも、社内キャリアに固執せず労働市場全体を見据えたキャリアデザインをしておけば、いち早く流動化のメリットが享受できるに違いない。


以下、興味深かった論点。

・紹介状はとても有効である

こてこての年功序列組織なので、医大教授と言ってもピンキリ。ネズミの実験しまくって教授になった人もいる。そういうハズレを回避する上でも“紹介状”はとても有効だ。

・慶應大学病院がぱっとしないワケ

研修医が研修先に選ぶ大学病院はロケーションとブランドでほぼ決まるが、慶応病院は17年度研修医数ランキング14位とさえない(一位東大、二位医科歯科大、三位京大)。そのワケは著者によるとこうだ。

「世界に冠たる慶應義塾大学病院」と、2013年度前後のインタビューで当時の慶應義塾長や病院長が何度か公言している。
(中略)
「日本で14位、世界ランキングベスト100には入ったことが無く、ノーベル賞ゼロ」の大学病院トップの発言としては……正直イタいと思う。ノーベル賞などで結果を出している東大・京大関係者には、ここまでの上から目線な発言はないし、「トップがこういうカン違いなこと言うから、若い医者に逃げられるんだよ」と、私を含む多くの医師が思っている。また、慶應大病院で非慶應卒の医師が活躍したニュースは皆無であり、このことも「14位(79校中)」の一因なのだろう。


とはいえ、慶應医学部卒の8割超が母校の病院を回避して外に飛び出すほど進取の気性に富んでいるので、著者は慶應病院の未来には期待できるとのこと。

・地方の医師不足対策は公共サービスのダウンサイジングと規制緩和で

地方の医師不足といっても、人口比で相対的に考えれば決して地方は医師不足ではない。むしろ、人口や税収減少に従って医療含む公共サービスをダウンサイジングさせなければならないところを、バブル期の栄光を忘れられず現状維持に固執し、中には目先の補助金目当てに無茶なアップグレードを強行してしまう。
(中略)
中央行政の取るべき道は、研修医制度を強化して若手医師を僻地に強制派遣することではなく、縮小する地方経済に合致した身の丈にあった医療サービスをすすめるべきである。

そのためには、規制強化による医師派遣よりも、むしろ規制緩和で「インターネット遠隔診療」「薬の通信販売」「uberによる通院の補助」等を推進すべきである。


・市場原理導入と混合診療が必要な理由

少子高齢化や人口減少、そして将来的な税収減は明白であり、現在の水準での社会保障や公的医療サービスを将来ダウンサイジングすべきなことも明らかである。ゆえに「保険診療は基礎的医療に限定し、高度で贅沢な医療は自由診療にして混合診療を解禁すべき」という意見がある。「米、卵、牛乳は支給するが、ビフテキやウナギは自費で」のような意見であり、混合診療の解禁に賛成する若手・中堅医師は多い。

日本医師会の幹部は「米国のハゲタカが日本医療を襲う」「米国では盲腸手術が700万円」「株式会社は安全性よりコスト優先など、恐ろしげなフレーズを並べて混合診療に反対し「国民の命を守れ」と現状維持を主張する。だが「じゃあその財源はどうすればいいの?」という疑問には、まったく答えてくれない。

不妊治療とは日本で唯一、医療に市場原理が導入された分野であるが、国際的には比較的安価でありながら高い水準のサービスを提供している。弱肉強食が徹底した不妊専門病院は不必要な人材は排除されることもあり、重大な医療ミスや医師の過労死の報道もない。
(中略)
国鉄がJRに民営化されたからといって、大きく事故が増えていないのと同様である。年功序列で管理職になり、昼間から窓際で雑誌を読んでいるタイプの爺医はリストラされるだろうが、こういうタイプの医者が辞めても同僚も誰も困らない。



・女性の社会進出が進まないワケ

米国の大学病院では「基本給が年10万ドル+診療報酬の25%ボーナス」のような契約が一般的である。元同級生でも「皮膚科医、年20万ドル」「心臓外科医、年100万ドル」のような格差が発生しても当然とされ、「研修医が皮膚科に殺到して、心臓外科医が絶滅しそう」な自体は発生していない。

米国でも女医率は増加する一方であり、産育休の取得も珍しくない。しかし、出来高の報酬体系が主流なので、同僚が産休女医の仕事を肩代わりした際には金銭的に代償され、現場での大きな軋轢は起こらない。また数年単位の有期雇用が主流であり、病院がスキルを維持できないママ女医を解雇することも当然とされるので、就職にあたって女医であることは日本ほど問題にはならない。

「女子増加が医療崩壊を招いた」との意見を、私は訂正したい。女子増加にもかかわらず、「全科同一賃金」「年功序列待遇」「サービス残業」「バイト以下の当直料金」のような昭和時代からの雇用慣行を変えようとしなかったことが、産科医療の崩壊を招いたのである。


・解雇規制緩和の重要性

働き方改革でちんぷんかんぷんな精神論聞かされるくらいならこのパート読むだけで十分だろう。

P医大麻酔科のQ教授は、本当にダメな教授だった。徹底したゴマすりと年功序列で教授になったものの、麻酔はアバウトだし英文論文はゼロ。管理職としても人望がなく、言うことがしょっちゅう変わる……そして部下がどんどん辞めていった。

「このままだと、P医大病院では手術が出来なくなってしまう!」

事態を重く見た上層部はQ教授を新設の医療教育メディアセンター長のようなポストに異動させ、腕も人望もある新教授を迎えて麻酔科崩壊を防いだ。Q教授の机は“メディアセンター”と称する倉庫の一角に移され、Q教授は定年までの2年間をそこで過ごした。

数年後、私が関東のある病院に出張麻酔に出かけた際、総合診療科の案内パネルにQ先生の名前を見つけた。コッソリその外来をのぞき見すると、確かにQ先生だった。聴診器とベッドだけのシンプルな外来で、地元の老人たちを相手に、診察というか愚痴を聞きながら、湿布やトローチを処方していた。Q先生はここでは人気者らしく、待合室にはズラッと患者が並んでいた。

同僚の先生たちも「年寄りの長話の相手を引き受けてくれるので助かっているよ」と語っていた。なによりも、倉庫の片隅でゾンビのように座っていた頃とは雲泥の差でイキイキしており、「60代後半の人間がこんなにもポジティブに変われるのか!」
と、私も驚いた。


少し残念に思ったのは、それが2年遅かったことである。もしも2年前にP医大がQ先生をスパッと解雇出来たら、Q先生は不毛な月日を過ごすことなく、より早く医師としての新天地を見つけられたはずなのに。



書評「デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論」




政府がばらまいてもダメだし、日銀に色々やらせてもダメだし、いったいどうやったら自分の生活は豊かになるんだとお困りの皆さん。原因がわかりましたよ。本書によれば、それは“経営者”です。


東洋経済オンライン連載で既に各所で話題となっている本書だが、元アナリストらしく、詳細なデータ分析で日本の現状を赤裸々にしていく。なんとなく「日本って世界第二位か三位くらいの経済大国でしょ」くらいのぼんやりしたイメージを抱きがちな日本人にとってはなかなか衝撃的な姿がそこに並ぶ。

・一人あたりGDP=先進国中最下位(世界第27位)
・一人あたり輸出額=世界第44位
・外国人観光客からの売上のGDP比=世界第126位

一人当たりで見れば経済大国でも何でもないレベルで、輸出大国というほどには輸出できておらず、インバウンド需要と言ってる割にまだまだ稼げていないのが現実だ。こんなに頑張ってるのに豊かさが実感できないって?そりゃそうだろう。いまやアジアの中でもトップ集団から落ちかかってる状況なんだから。かつて経済大国の地位に上れたのは、一人あたりの水準の低さを豊富な人口でカバーしてきたためであり、生産年齢人口が頭打ちになった90年代に成長も頭打ちになったということだ。

そして、著者はそうなってしまった原因について「人口ボーナスのある時代の日本的なやり方に固執し、組織の生産性を上げるための変革をしようとしなかった経営者にある」と断ずる。著者の最後の提言の一つは、年金資金突っ込んで政府がじゃんじゃん上場企業の株買って、生産性や時価総額を上げるような改革を断行するプレッシャーをかけろというものだ。

方向性でいえばそうだろう。
ただし、ことはそう単純な話でもない。たとえば、日本にも経営の合理化を進めて生産性を向上させようと努力している経営者はいて、代表は日本IBMなのだが、ローパフォーマーをリストラしようとするたびに裁判でボロ負けして「生産性の低い社員も事業も飼い殺しにしろ」という強力な教訓を日本中の経営者に発している。

日本IBMに三たび勝訴 ロックアウト解雇  第4次も無効判決

正直、現状で社長さんの尻叩いても限界があると筆者は思う。

あと、著者の挙げる「日本の生産性が低いのは女性に付加価値の低い仕事ばかりを与えているためだ」との主張も、全くその通りだろう。でも、その背景には、

・男は残業、転勤いつでも来いの総合職、家庭に入る前提の女性は一般職もしくは派遣
・結婚や出産イベントで女性は退職、再就職は非正規雇用で

という戦後の大きなメインストリームがあるわけで、これもやっぱり社長の尻を金属バットでフルスイングしても限界があるように思う。

というか、本気で女性に男性と同じ仕事を任せるのであれば、とりあえず転勤も総合職という制度もなくすべきだし、男も女性と同程度には家事を負担すべきだろう。あ、ついでに、一時的な離職が不利にならないよう、オジサンたちの大好きな年功賃金も全廃して非正規と同じ役割給に一本化するしかない。この時点で、世の8割くらいのオジサンは「えーーーそんなのイヤだよ」となるのではないか。

そう、結局のところ、著者の指摘は正しいのだが、それは著者の言うように「政府が大企業経営者を過保護にしてきた」のではなく「政府が大企業という箱舟に乗った社長や正社員やその家族を過保護にしてきた」というのが実情のように思う。

とはいえ、著者はそのことをよく理解した上で、あえてそこには触れずにまとめてあるように見える。というのも、本書のラストでさらりとこう述べているから。

経営者にプレッシャーをかけると、リストラによって失業者が増えることを危惧する人もいるかと思います。しかし、短期的にはそうであっても、そもそも人が足りず、移民を増やすべきだと言われているくらいですから、中長期的にはその心配は不要だと思います。



さて、ここからは私見。

意外に思う人もいるかもしれないが、日本人の半分くらいは、「どの政策が合理的か」ではなく「どの政策が自分にとって美味しいか」で政策を決める人たちだ。たとえば「消費税をあと10%くらい挙げて、それでも足りない分は社会保障見直しで対応する」という当たり前の政策よりも「政府の借金は国民の資産!だからどんどんばらまけ!」とか「日銀にじゃぶじゃぶ緩和させればインフレになって給料も税収も上がる!」とかいうのにぱくっと飛びついちゃう困った人たちだ。

まあそういう人たちは自己責任なのでほっとけばいいんだけど、困ったことに民主主義国である我が国ではそういう人たちも同じ一票を持っているので、完全放置というわけにもいかない。ほっとくとヘリマネとかそういうのにパクッと食いついて社会がおかしなことになってしまうかもしれない(ブレグジットとかトランプ大統領爆誕というのは、“困った人たち”をほったらかしにしてきたツケの典型だ)。

そういう意味では「経営者が悪い」で上手く誤魔化してある本書は、ぎりぎりのナローパスを狙ったものとも言える。「そうだそうだ、経営者がなんもしないからだ。でも経営者ってなんで何もしようとしないんだっけ?」という具合に、あるべき方向に議論が発展していくかもしれないから。正しい議論の行われるテーブルの端っこに座ってもらえるくらいの意味はあるだろう。


以下、その他の本書のツボ

「移民政策」は、やるべきことから目を背けるための言い訳

現在、移民を受け入れて経済成長を果たしている国は「移民」だけで成長しているわけではないということです。いずれの国もそれ以外のやるべきことをやっており、生産性の水準が高いのです。
(中略)
日本における「移民政策」議論を聞いていると、この前提が無視されています。これは完全に「移民政策」の本質を見失っています。

入社直前に会社がとんでも慌てて目の前の餌には食いつくな、というお話

先日、「てるみくらぶ」という旅行会社が倒産したが、新卒の内定者が50人いることが分かって騒動になっている。社員80人で内定者50人というのはちょっと聞いたことが無い。というか、中小企業で新卒を10人以上採れるというのもすごい。なかなか新卒って採れないんですよ中小って。

てるみくらぶ、約50人を内定済み…採用取り消し伝える

確かにちょっと無鉄砲すぎる数字だとは思うが、少なくとも会社がつぶれるとは経営陣も予想はしておらず、また、若い世代からみてなにがしかの魅力ある会社ではあったのだろうと思う。

で、こういう時には必ず「普段から新卒を採りたくてうずうずしてるけど採れてない会社」がさも救いの手を差し伸べるかの如く食いついてくるだろうなと思ってたら、もう釣り上げられてましたね(笑)

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とりあえず現在は超がつくほどの人手不足なんで焦って食いつく必要もないでしょう。氷河期とは全然状況が違いますから。1,2か月くらい入社時期が先延ばしになったくらいの感覚でじっくり選ぶといいですよ。そういうイレギュラーな出来事を嫌うのはお役所と大企業くらいのもんだから。

それにしても、SNSって情報が速くていいね!










なんで非正規の賃金は上がるのに正社員は上がらないの?と思った時に読む話

今週のメルマガの前半部の紹介です。春闘シーズンになりましたが、空前の人手不足にも関わらず、賃上げペースが昨年割れする企業が目立っています。

【参考リンク】ベア減速、物価上昇も加わり消費にダブルパンチ


一方で、派遣やパートといった非正規雇用労働者の方は、じりじりと賃上げが浸透しつつあります。昨年の所定内給与月額は、正社員0.2%増に対し非正規雇用は3.3%増となり、比較可能な05年以降では両者の賃金格差は過去最少となっています(賃金構造基本統計調査より)。

従来「不景気の時には非正規雇用が切られ、好況になれば正社員にベアを持っていかれる」という具合に、とかく非正規雇用は正社員の踏み台にされているという風潮がありました。ところが、現在発生しているトレンドはそれとは真逆のようにも見えます。

なぜ、交渉力の強いはずの正社員の賃金が据え置かれる一方、立場の弱いはずの非正規雇用の賃上げがじりじり続いているのでしょうか。その原因を理解すれば、これから先の日本経済の行く末もうっすらと見えてくるはずです。

労使は10年先を見越して今年の賃金を決めている

なぜ正社員の賃金は上がらないのか。それは終身雇用を前提とする以上、将来的なリスクも織り込まねばならないからです。もうちょっとわかりやすく言えば、たとえば10年先20年先に会社の経営状況がどうなっていようと、従業員に滞りなく給料が払えるような水準にしておくということです。日本はいったん賃上げしてしまえば賃下げも解雇もきわめて難しいため、少々景気が良くてもそう簡単には賃上げできません。下手に欲張って賃上げしすぎるとあとでリストラされかねないわけですから、こういうスタンスに労組も協力的です。

「釣った魚に餌はやらない」ということわざがあります。よく夫婦間で使われる言葉ですけど、正社員も同じですね。ただこれは愛情の裏返しでもあって、要するにこれからもずっと養っていけないといけないのだから無計画に大盤振る舞いはしませんよということですね。

一方、そんな将来の心配なんてしなくてよい非正規雇用労働者には、労働市場の需給に応じた賃金が支払われることになります。慢性的な人手不足でどの業界でも需要はタイトですから、彼らについてはじりじりと時給が伸び続けているわけです。

というと、たぶんこんな疑問を持つ人もいるでしょう。
「でも90年代までは、今と違って正社員はガンガン昇給してたぞ」
確かに90年代後半までは毎年ベースアップ分だけで1%以上、定期昇給と合わせると3%以上の賃上げが普通でした。当時と現在でいったい何が違うんでしょうか。

それは、将来に対する見通しです。これから日本経済がどんどん成長し、売上げも安定的に伸びていくだろうと多くの企業が予想すれば、賃上げをためらう理由はありません。むしろ今のうちから賃上げしておいた方がより優秀な人材を囲い込めるメリットもあります。90年代半ばまでは、多くの日本企業がそういう未来像をイメージし、賃上げし、実際に消費も増えるという“良い循環”が存在したわけです。

ところが、少なくとも2000年代以降、多くの企業において、この見通しはまったく逆になってしまっています。人口は減り続け、生産性も上がらず、日本経済はよくて横ばい、下手をすればマイナス成長に陥るのではないか……だとすれば、たとえ現在多少の余裕があったとしても、将来に備えて賃金を抑制しておいた方が合理的ということになります。そして、多くの企業がそうすることで現実に消費も抑制され、予想は現実化することになります。そう、昔と逆の“悪い循環”ですね。

交渉力の強いはずの正社員の賃上げが進まない背景には、こうした労働市場の構造的問題があるというのが筆者の意見です。実はこの問題は、2013年に出版された「デフレーション―“日本の慢性病"の全貌を解明する」という書籍にて正面から取り上げられていたテーマでもあります。デフレの原因は金融政策でも人口減でもなく、賃上げより雇用を優先する日本の特殊な労使関係にあるとした同書は、2013年の週刊東洋経済・年間経済書ランキング第一位にも選ばれ、大きな話題となりました。

その後に成立した安倍政権はアベノミクスの名のもとに大規模な金融緩和でデフレ脱却を試みましたが、結果、非正規の賃金が上がる一方で正社員の賃金は停滞を続けるという現状は、見事に日本の労働市場の特殊性を証明したと言えるでしょう。





以降、
賃上げを実現する2つのアプローチ
拡大する非正規のメリット、縮小する正社員のメリット







※詳細はメルマガにて(夜間飛行)







Q:「企業内労組の経験はキャリアにプラスでしょうか?」
→A:「でっかいことが色々経験できる社内部門の一つと考えてOKです」



Q:「40歳以上の社員に何度も転勤させる会社はアリですか?」
→A:「まだアリますね、そういう会社。あんまり心配しなくてOKですけど」







雇用ニュースの深層

・シャープは新卒の就職先としてかなりおススメ


他。



Q&Aも受付中、登録は以下から。

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「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話


それゆけ!連合ユニオンズ[上]


若者を殺すのは誰か?


7割は課長にさえなれません


世代間格差ってなんだ


たった1%の賃下げが99%を幸せにする


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代


若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
castleoffortune@gmail.com
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