ビジネスマンの精神科 (講談社現代新書)
岩波 明
講談社

このアイテムの詳細を見る


先日、某紙の編集委員と話していて、ふと会社内のメンタル・トラブルの話題となった。
なんでも地方支局に顔を出すと、4人も休職者がいて驚いたそうだ。記者20人だから実に2割。
それも、全員2,30代の若手らしい。
「いったいどういうことなんでしょうか……」と困惑していたが、無理もない。

その新聞は過去、何度も、“うつ”などのメンタルトラブルの増加は、「IT社会のストレス」だの
「ノルマや過重労働」だのが原因だという論調を張ってきた。
だがこれらは誤りだ。週休二日制の浸透やITの普及で、むしろ日本人の年間総実労働時間は
(長期的には)減少傾向にある。そもそも、東京の政治部ならともかく、地方支局で過労というのは
あまり聞かない。
そしてとても重要なことだが、新聞崩壊とかなんとか言われているが、新聞社の平均賃金は
腐ってもメーカーよりは高く、それくらいの若手でも800万くらいは貰っている。

つまり、「全然恵まれた労働環境なのに、なぜわが社の社員はこうもバタバタ壊れるのか」
という点に困惑しているわけだ。

とはいえ、理由自体ははっきりしている。
30代前半までに、「本社出世コース」と「地方ドサ回り兵隊コース」に分けて
後は30年間放置プレイなんて硬直的な人事制度こそが原因だ。


30過ぎの若手に「おまえあと30年間消化試合だから。あ、でも仕事は手抜くなよ」というのは
やっぱり無理があるのだ。消化試合を無くすには、社内にクライマックスシリーズを導入しないとね。

この点について、精神科医の岩波明氏が興味深い指摘をしている(狂気という隣人)。
氏の同僚である医師が、数年の間に5人も自殺したこと、そして、よく指摘される「医師の過労」
といった問題が、この場合はあてはまらないことを述べた上で、一つの“仮説”を示す。

自殺を考える以前に、あるいはうつ病の状態になる以前に、すでに彼らは
生きていくこと自体に希望を失っていたのではないか?そしてまたこのことが、
最近増加している自殺者たち、あるいは自殺しようと考えている多くの人々に
あてはまるのではないでしょうか。


僕の感覚からすると、この指摘がもっとも現場に当てはまる気がする。

ちなみに、冒頭の編集委員さんには「もうちょっと簡単な対策はないですかね?」と聞かれたので
もっと簡単な対策も提案しておいた。
それは、最初から「正社員でありさえすれば満足だ」という人材を採用することだ。
高い収入はもちろん、やりがいや社会の公器たらんというような情熱も持っていない層だけ採れば、
そこまでの惨状にはならないだろう。
要は、最初から仕事を消化試合だと思っているタイプを採るわけだ。

「そんなのじゃ仕事は回らないよ」というのであれば、システム自体にメスを入れるしかない。
飲めば一発で直る処方箋なんて存在しないのだ。


※精神科医の著作にはいい加減なものも多いが、氏は数少ない「信頼できる書き手」だ。
 「ビジネスマンの精神科」は、メンタルトラブル対策の重要性を理解する上でも有用なハンドブックだろう。
スポンサーリンク